米海兵隊上等兵が女性に対する強制性交等致傷罪で起訴されていたことに関し、県は19日、昨年12月時点で米軍からの情報提供を受け、把握していたことを明らかにした。県は非公表とした理由を、県警や那覇地検から「被害者のプライバシーの観点から情報の取り扱いに注意するよう依頼された」と説明した。ただ、県によると、事件が起こった日時や場所などについて、捜査機関側から説明はなかった。
県内では昨年から米軍関係者による性犯罪が相次いでいる。さらに、過去には、日米地位協定によって、起訴前の被疑者の身柄が引き渡されず、米軍基地から逃亡する事案も起きた。強姦救援センター・沖縄(REICO)の高里鈴代代表は「被害者を守ることは大事だが、起こった犯罪を伏せる意味はない。むしろ、被害女性へのサポートが問われており、非公表とすることで問題が矮小(わいしょう)化するのではないか」と述べ、県や捜査機関の対応を疑問視する。
■食い違う説明
非公表としたことについて、那覇地検は「性犯罪であることなど、事案の性質などを鑑みて、公表を控えた」とした。県警は、県からの問い合わせに対し、不拘束事案で性犯罪であることから「被害者保護の観点から(県警は)広報しない旨伝えた」と説明。県は非公表を「依頼された」と捉えるが、県警関係者は「被害者感情に考慮するよう伝えたが、県に対して、非公表を直接働き掛けてはいない」と否定する。両者の説明や捉え方は、食い違っている。
今回の事件は昨年10月に発生し、県警が強制わいせつ致傷容疑で書類送検後、那覇地検が強制性交等致傷罪で起訴した。一方、県警は21年1月に起きた米兵による強制わいせつ事件、同年4月に起きた米軍属による強制性交未遂事件について、いずれも逮捕時に事件の発生を公表していた。
任意捜査か強制捜査かの違いはあるものの、広報対応には明確な差異が出ている。昨年10月の事件発生は衆院選の直前とみられ、選挙戦への「配慮」があったのではないかとの見方も上がっている。
■懸け離れた対応
1993年5月、沖縄市で10代の女性が米兵に乱暴された事件が発生したが、容疑者は基地内から脱走し、米本国へと逃亡した。この事件などを契機に、起訴前に身柄が米軍にあるときは、起訴されるまで日本側に引き渡さなくてもいいという日米地位協定17条の問題が浮き彫りとなった。
その後、95年の少女乱暴事件を契機として「運用改善」がなされ、凶悪な犯罪の場合は起訴前の身柄引き渡しについて米側が「好意的な考慮を払う」としている。
一方、日本では2017年に刑法が改正され、性犯罪は起訴するのに告訴が必要な「親告罪」ではなくなり、厳罰化された。だが、那覇地検などによると、今回発生した強制性交等致傷事件は、起訴前まで、米兵の身柄が米側にあった。
高里代表は「どのような管理下にあったのか。自由に行動ができていたのかなど明らかにするべきだ」と指摘。性犯罪を厳罰化する刑法改正の流れや、日米地位協定の「運用改善」からも懸け離れた対応だと指摘した。
(池田哲平、高辻浩之、前森智香子)