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「組み・掛け合わせ」にあり 成長の鍵<復帰50年 沖縄経済の針路>9


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 新しい振興計画を読みました。必要な課題と施策が全て網羅されています。今後は、「具体的な成果」をどう挙げていくかが「従来以上に」問われます。全てを実現するのは困難です。成果と実績にこだわるなら、選択と集中が不可欠です。

 現実問題として、観光業を軸に成長を目指す路線は今後も変わりません。しかし、人の移動や対面接触を前提とする従来の観光業は、コロナ禍のような外的ショックに脆弱(ぜいじゃく)なことが改めて露呈しました。パンデミック以外の外的ショックの可能性も取り沙汰されています。だとすれば、「新たな柱を作る」か「観光業に幅と厚みを持たせる」ことが必要になります。企業が収益源の多様化を図るのと同じです。こうした観点から、県経済の成長戦略を考えます。

 前置きになりますが、昨年、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)が、熊本県に半導体工場を新設することが公表されました。これを受けて、九州では、EV(電気自動車)の生産拠点を構築しようとする構想が見られます。九州における半導体産業と自動車産業の集積を融合させ、さらには、(沖縄県と同じく)アジアの中心という地理的特性を生かし、台湾・中国・韓国に立地するEVの基幹部品(半導体、車載電池、モーター)工場と連携し、九州を「EVの一大生産拠点」にしようとするチャレンジングなビジョンです。

 沖縄県に製造業の集積はありませんが、同様のグローバルな発想でグランドデザインを描くことは可能です。

 その際、必ずしも新しい材料は必要ありません。これまでの振興計画などでおおむね出尽くしています。重要なのは、個々の施策や産業振興を「並列的・縦割り的・個別に」考えるのでなく、全体を鳥瞰(ちょうかん)的に捉え、強みのある分野や期待できる分野を組み・掛け合わせ、1+1が2を超える戦略を発想することです。

 まず、第1の組み・掛け合わせです。観光業の武器である自然資源やリゾートホテル以外にも、沖縄県には多くの魅力的なハード・ソフトがあります。

 独自の歴史・文化、琉球料理、農水畜産物、泡盛、空手、組踊、やちむん、(幻想・誤解を含めた)健康長寿、もろもろの県産品など、枚挙に暇がありません。これらのコンテンツに横串を刺し、有機的に融合させて磨き上げます。製商品にエッジを利かせるストーリーやナラティブ(物語)づくりも重要です。

 次は、PR・販促体制の組み・掛け合わせです。既に沖縄大交易会をはじめ、各地区の産業まつり、離島フェアなど、意義のある取り組みが実施されています。これらのノウハウを結集させれば、相当なパワーになるのではないでしょうか。

 インフラは、これまで構築してきた国際物流機能との掛け合わせが期待できます。売り込み先は、本土やアジアだけでなく、欧米もターゲットです。

 この点は県物産公社や地元商社だけでなく、ノウハウの豊富な総合商社などとの組み合わせが必要になるでしょう。

 沖縄県の魅力をハード・ソフトの形で丸ごと輸・移出するビジネスは、コロナ禍等の影響を受けにくい「新たな柱」になり得ると同時に、従来の観光業に幅と厚みを持たせることにもつながります。沖縄県の魅力に触れた欧米からの観光客が増えれば、課題である「1人当たり消費額や平均滞在日数の向上」にもプラス効果が期待できます。

 本稿では、紙幅の関係で概要を述べるに止まりますが、こうした「組み合わせ・掛け合わせ」の発想で、他の分野の成長戦略を立案することも可能になります。

(桑原康二、元日銀那覇支店長)


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  沖縄が日本に復帰して今年で50年。県民所得が全国最下位水準で貧困問題を抱えるなど県経済の課題は多い。沖縄の経済を鋭い視点で見つめてきた元日銀那覇支店長の桑原康二氏に現状分析を基に提言をしてもらう。


 くわはら・こうじ 1965年広島県生まれ。シェークスピアと西洋美術史の研究者を志し、東京芸大を志望するが断念し、東京外大・英米科に入学。紆余(うよ)曲折を経て再度方向転換し、89年に日本銀行入行。那覇支店長などを務め、現在は会社役員。