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今からの備え必要 人口減少<復帰50年 沖縄経済の針路>10


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 以前取り上げましたが、近い将来、沖縄県は人口減少に直面する見込みです。国立社会保障・人口問題研究所の最新推計によると、2030年まで人口が増加した後は、減少に転じます。加えて高齢者(65歳以上)人口が全国一のスピードで急増していきます。あと10年もありません。あっという間です。

 人口は社会活力や経済成長の源泉です。企業や金融機関には、人口や世帯数の増加を前提としてきたビジネスモデルの転換が求められます。一方、県民にとって最も重要な課題は「持続可能なまちづくり」です。

 人口減少が進むと、中心部でも郊外でも人口密度が低下し、まちが虫食い状態になります。税収の減少により財政が悪化すると、広範囲に散在する住民への行政サービス(ゴミ収集など)提供や、老朽化する公共インフラ(道路、上下水道)の維持が困難になります。車依存度の高い沖縄県では、運転できない高齢者が増えると、日々の生活(買い物・医療・介護)に支障が生じます。過疎化しやすい離島の多さも本土にはない課題です。

 既に人口減少に直面している本土の一部自治体では、税金を投じた優遇措置(移住者への住宅・医療・子育て面での補助)で減少していく人口を奪い合っています。これでは、本質的な(持続的な)解決策になりません。必要なのは、「高齢化を伴う人口減少が続く」という現実を前提に、存続可能なまちの在り方(戦略的な縮み方)を大局的かつ具体的に考えることです。

 国の後押しもあり、少なくない自治体で「公共交通を活用したネットワーク型コンパクトシティ政策」が検討・推進されています。コンパクトシティとは、住民の居住区をまちの中心部に集約し、そこに商業・医療・公共施設を充実させ、徒歩と公共交通(コミュニティバスや軌道系交通など)で生活圏内を移動する構想です。その上で、各地域をより大きな公共交通で結び、ネットワークを形成するイメージです。

 とはいえ、全ての住民を中心部に集めるのは困難です。各地域の抱える課題が異なるなか、コンパクトシティ化を円滑に進めている自治体もあれば、苦戦している自治体もあります。コンパクトなまちづくりを推進する際には、周辺・過疎地域の住民や高齢者が取り残されないよう、新技術の活用も不可欠です(Eコマース+ドローン配送、オンライン診療や医療・介護ロボット導入、行政手続きのデジタル化、自動運転車や空飛ぶ車による移動など)。

 もし沖縄県がコンパクト化を志向するとしたら、各地域の中心部を(構想中の)鉄軌道や幹線バスで連結する姿が考えられます。鉄軌道や幹線バスの整備は、県民の生活だけでなく、道路渋滞緩和を通じて、産業界の生産性向上、観光公害(レンタカー渋滞)の解消、脱炭素にも寄与します。

 最初からコンパクト化政策に決め打ちする必要はありませんが、本土や海外のさまざまな取り組みや先行事例を参考にしつつ、沖縄県の実情を踏まえ、必ず来る「高齢化を伴う人口減少」を前提とする持続可能なまちづくりを今のうちから検討するべきです。その際には、人口減少を逆手に取り、新技術を活用しながら、「県民の暮らしをより良くする」「地域を活性化させる」という発想も不可欠になります。

 この連載も最終回となりました。毎回書きたいことがあり過ぎて、取「捨」選択に呻吟(しんぎん)しました。今も提言したいことがどんどんあふれ出てきます。今後もさまざまな形で愛する沖縄県に貢献していきたいと考えています。
 (おわり)

(桑原康二、元日銀那覇支店長)


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  沖縄が日本に復帰して今年で50年。県民所得が全国最下位水準で貧困問題を抱えるなど県経済の課題は多い。沖縄の経済を鋭い視点で見つめてきた元日銀那覇支店長の桑原康二氏に現状分析を基に提言をしてもらう。


 くわはら・こうじ 1965年広島県生まれ。シェークスピアと西洋美術史の研究者を志し、東京芸大を志望するが断念し、東京外大・英米科に入学。紆余(うよ)曲折を経て再度方向転換し、89年に日本銀行入行。那覇支店長などを務め、現在は会社役員。