沖縄戦の組織的戦闘の終結から77年を迎えた「慰霊の日」の平和宣言で、玉城デニー知事は県政最大の課題となる米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古新基地問題を巡り、政府に「断念」を求めると強調した。平和宣言で、新基地への「断念」を求めたのは2019年以来、3年ぶり。ただ、同問題を巡り、国との訴訟や争議が続く中、県の意見を受け入れない政府に対して、直接的な批判は避けた。
岸田文雄首相も式典のあいさつで、基地負担軽減に努力するとしたが、新基地に関する直接的な言及はなく、式典前に玉城知事と非公式で短時間会談するなど、自身が政治信条とする「聞く力」を演出した。平和宣言は、歴代知事が今なお続く沖縄の不条理を訴える政治的な場面ともなってきたが、この日は終始、融和ムードが漂った。
一方、今回の平和宣言は、沖縄の日本復帰50年の節目に合わせ、初めて「公募」を実施し、県民意見を取り入れた。県によると、県民意見と、知事の思いを踏まえて、県庁内で検討し、文案を作成したという。
国連教育科学文化機関(ユネスコ)憲章の前文、ロシアのウクライナ侵攻を受け、対話を尊重する必要性など多様な意見を盛り込んだ。ウチナーグチと英語を織り交ぜる、玉城知事の「こだわり」も前年同様に踏襲された。
ただ、策定主体が県庁内にとどまったことで「県民意見」と「知事の思い」がどの程度の比率で反映されているのかなど、文案を練り上げる過程が見えにくい部分もあった。初めての公募に関しては、やや唐突感もあり、寄せられた意見も33件にとどまった。
原爆で多くの住民が犠牲になった長崎市や広島市は、平和式典で市長が読み上げる「平和宣言」について、外部有識者や、被爆者らによる起草委員会や懇談会を組織して策定する。
県は、次年度以降の県民意見の公募について「未定」としているが、今後の平和宣言の意義をどう位置付け、どのような方法で策定するのかなど、多くの人が平和の願いを共有するためにも県民への発信が求められる。
(池田哲平)