今回の参院選は「オール沖縄」勢力の推す現職の伊波洋一氏と、自民新人の古謝玄太氏(公明推薦)の事実上の一騎打ちだった。選挙の対決構図は従来と同様だったが、今回特に注目されたのが、自民の古謝氏が辺野古新基地建設「容認」を明確に打ち出したことだった。
これまで保守系候補は辺野古新基地への賛否を明示せず選挙に臨み、争点ぼかしに徹する姿勢が目立っていた。今回は自民候補者がこうした従来方針を転換したことで、基地争点をめぐる対立がより鮮明となった。
しかし対立軸の鮮明化と、基地争点がどれだけ有権者に重視されるかは別の事柄である。今回選挙にあたって有権者が重視する事項の各種調査でも、暮らしや経済を重視する割合が増えていた。
長引くコロナ禍で観光産業をはじめ県経済は大きな打撃を受け、また国際環境の激変による最近の様々な物価高などの困難も加わった。有権者の関心が基地争点から県民の暮らしや県経済の立て直しという経済争点の重視へと大きく移ったとしても不思議ではない。
選挙戦は知名度で圧倒的に勝る現職の伊波氏が先行し、元総務官僚としての行政経験をアピールする古謝氏が激しく追い上げる展開が予想された。また、有権者の関心の変化を意識して、伊波氏の陣営も基地反対を公約の並列的な3本柱の一つと位置付け、暮らしや経済も等しく重視することを訴えていたが、選挙戦の後半には、辺野古に加え、南西諸島への軍事力配備強化の反対、沖縄を再び戦場化させないなど、反基地や平和争点の強調に力点が移っていったように見受けられた。
結果は、伊波氏の薄氷の勝利だった。中央では国民の関心が「安全保障」に向けられ、改憲のみならず、防衛費の倍増や核共有の声さえ聞こえるようになった。だが、それは本土中心の安全保障であって、沖縄から見れば戦場化の危機の高まりでしかない。有権者は伊波氏にそうした沖縄の生の声を発信し続けることを託したといえよう。
(政治学)