【作品全文】上原美春さん「Unarmed」初代ひろしまアワード受賞 「平和の詩」朗読後の中傷…紡いだ「武器を置く」


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2021年の沖縄全戦没者追悼式で平和の詩を朗読する上原美春さん=糸満市摩文仁の平和祈念公園

 6月の宮古島市全戦没者追悼式で同市立西辺中3年の上原美春さん(14)が自作詩「Unarmed(アンアームド)」を朗読した。第32回「児童・生徒の平和メッセージ」詩部門(中学校の部)で優秀賞に選ばれた作品だ。上原さんは2021年の沖縄全戦没者追悼式で詩「みるく世(ゆ)の謳(うた)」を朗読し、今年広島県で開かれた第1回ひろしま国際平和文化祭(同実行委員会主催)の音楽部門国内の部「初代ひろしまアワード」も受賞した。「Unarmed」全文(県平和祈念資料館提供)と大城貞俊さんの論考を掲載する。


Unarmed

偽善者だ
おまえが戦争に行けばいい
おまえが死んでしまえばいい
おまえが
おまえが

一年前
摩文仁で平和を訴えた
決意を新たに
誇らしく
大好きな沖縄
大好きな世界
命の尊さ
いいことをしたと思った
皆が喜んでくれると思った
賞賛があり
拍手もあったけれど
私の心を刺したのは
ナイフのような言葉の数々
悔しくて悲しくて痛くて痛くて
この気持ちを何処にぶつけよう
なんと言い返してやろう
この痛みをどう解らせてやろう
私は悪くない
あいつが
あいつらが
そんな事を考えた

どこかで誰かが戦争を始めたらしい
弾丸の打ち込まれた街並
着の身着のまま逃げる人の列
「おなかがすいたよ」
幼い子供がそう言った
涙を流して家族と別れる
軍服のパパがいた
飢えに倒れた夫の冷たい手を取る
青い目のおばあさんがいた
ふたつの国の人はどちらも
私の国は悪くないと言っていた

おまえが あいつらが

そんな気持ちが
争いの種になるんだろうか

わからせてやろう ぶつけてやろう

そんなどす黒い雨が
種を育ててしまうのだろうか

本土復帰五十年
インタビューのおばあが言った
どちらも
武器を置きなさい

悔しくなかった?
悲しくなかった?
やり返してやろうと思わなかった?

あの絶望を見てきたおばあ
殺戮(さつりく)の歴史を知っているおばあ
無邪気な青春を あどけない時間を
奪われ捧げざるを得なかった
争いが残した貧しさの中一心不乱に
働いて働いて働くしかなかった
それでも

どちらも武器を置きなさい
憎しみが何を産んできたのか
命こそ大切なものじゃないか

私も
同じ沖縄に生きている
戦火を耐えてなお鎮(しず)かな
戦後を駆け抜けてなお揺るぎない
彼女と同じ今を生きている

今年もあの日がやってくる
六月二十三日
沖縄が毎年思い出す
忌まわしい記憶
忘れたい思い出
返して欲しい宝物
もう戻ることのない 愛おしい人
拳に爪が立つほど
悔しくて堪らなかった
噛んだ唇が切れてしまうほど
悲しくてやりきれなかった
七十七年前が戻ってくる

お前が死ねばいい
そんなことを言われた
私のあの日が戻ってくる

それでも
武器を置きたい
私は弱い
沢山傷ついて 傷つけようと思った
何度も逃げて
立ち向かうことを放棄した
それでも
武器を置きたい
傷ついたから
人の痛みがわかるから
何リットルも
涙を流したから
武器を置くことを
私の強さと呼びたい

私達は弱いから
先に武器を置こう
見てきた
聞かされてきた
学んできた
脳に刻まれているはず
細胞の一つ一つが覚えているはず
知っているはず
人間の弱さが起こした過ち
相手を傷つけることでしか
自分を守れなかった
弱い私達の過去
だから武器を置こう
明日も生きたいと願った
お願いだから生きていてと祈った
並々ならない
命への想いを
知っているはず
「命どぅ宝」と言いきれる勇気を
私達の強さと呼びたい

痛かったけど
痛いけど
武器を置こう
私は強い
私達は強い
切り裂かれた大地に立つガジュマル
憎しみに手折られた茎を立直す月桃
痛かったから
痛いから
だから
先に
武器を置こう

辛かったけど
辛いけど
生きていよう
私は強い
私達は強い
ずっと命を尊んできた
心臓の鼓動が続くこと
呼吸が明日も止まらないこと
当たり前を願った沖縄の思産子(うみなしぐゎ)
辛かったから
辛いから
だから
今日も
生きていよう

私達は強い
だから今日も
揺るぎなく平和を願っていよう


【論考】痛み越え、万感の思い 上原美春さん「Unarmed」絶望を救ったおばあの言葉 作家・大城貞俊さん