沖縄に進出する本土企業が見えていない求職者の本音<沖縄お仕事相談デスク>


この記事を書いた人 Avatar photo 田吹 遥子

今回のお悩み

沖縄に進出した企業の採用担当です。

正直言って、地元の企業より好条件で求人を出しているのですが、思うような採用ができていません。求人市場に限らず、沖縄の事情が特殊なことは分かりますが、何が原因なのでしょうか?

 

今回の回答者は…

採用のことならお任せ

ファンシップ代表取締役で採用コンサルタントの

小宮仁至さんです。

 

今回の質問は私がここ数カ月、採用の現場に立っていて徐々に増えてきたと感じる象徴的な質問を取り上げてみました。

今ほど、人によって感じる現場感が異なる時期も珍しいのかもしません。一方、一部ではアフターコロナを見越し、次の沖縄を見込んでの経済的な動きが始まっています。

一昔前の沖縄に進出する本土企業は「安い労働力」をほしがっていました。もしくは、本土社員の保養所的な意味を持たせて、採算よりも企業価値向上のウリとして沖縄進出をする、それが狙いだとおっしゃる経営者の話も聞いたことがあります。

いずれにせよ、沖縄県内で働く者としてはあまり気持ちのいいものではありません。結果として沖縄での成果よりも、景気の動向や本社の意向が優先されることも多く、「本土企業に不信感を持つ」という県民感情は暗黙知として醸成されてきました。

ただ昨今、沖縄に進出する本土企業は「沖縄だから低賃金で」という発想ではない企業も多く存在します。同一労働同一賃金という概念の浸透もあると思いますが、何より沖縄の本質に寄り添い、ある種のリスペクトを持った経営者や企業が増えてきたのではないか、とも思われます。

そのような背景で、冒頭の質問になるのです。

つまり、沖縄を見下しているわけではない。待遇もむしろ沖縄企業より良い条件を出している。求人広告費用もしっかり投下して、本土メディアも、沖縄地元メディアも活用している。それなのに、思ったような人材確保ができない。

求人倍率や求職者数のようなデータを見ても、極端に人がいないというわけでもなさそうだ…。一体全体、沖縄では何が起こっているのだろう?

この問題をひも解くには、沖縄県民特有の潜在的な感情を理解する必要があります。

 

 

沖縄県民が本土企業に抱くイメージ

私は普段、沖縄の人材不足の企業に対して、オーダーメイドで採用の仕組みを構築し、その企画・運用・制作・アフターフォローまで行っています。これまで携わらせて頂いた企業数は400社を超えました。

その中で思うこと。それは沖縄の求職者には、本土企業を選ばない潜在的な理由が存在している、ということです。

例えば名前も聞いたことがない本土企業が「時給2000円!」と求人を出すと、「うわーー!すごい!」という反応より「怖い、怪しい。何かだまされるに違いない」という防衛本能の方が先に働きます。

さらにある島しょ地域では「正社員」と募集をすると応募がなくて同じ仕事を「パート」で募集を出したところ応募が殺到した。という事例もあります。

これは企業側からすれば「向上心がない」みたいな印象を持ってしまうのですが、働く側からすれば「どうせすぐ切り捨てられる要員なのだから、責任までは取りたくない」という潜在的な防御意識が働いてしまっているのだと推察されます。

つまり「時給2000円」が本当に沖縄県民の所得向上に寄与したいという思いをもったものだとしても、「以前本土企業が似たようなことを標榜して進出し、すぐに撤退してしまった記憶がある・・・」というイメージを想起される場合が少なくないのです。

これから沖縄に進出する企業からすれば、何の資本関係もない赤の他人の会社がやったことなのに「本土からきた見知らぬ会社」という意味で一括りにされてしまうのです。

また、働く方も実は実際にそのような経験をしたわけではなくて「本土企業が怖い」と特段思っていなくても、「昔おじさんが勤めてた会社がひどかった」「友達のバイト先が急に閉まった」ということと「それは本土企業だった」という記憶が無意識に結びついて「なんとなく怖い」という感情を生んでいることも多々あります。

 

 

沖縄だからこそ有効な認知を得る方法

沖縄に良質な貢献をしようと考えている企業が、沖縄に進出する際に念頭においてほしいこと。それは待遇面や自社ブランドの優位性を打ち出すだけでは「怖い、怪しい」と思われてしまうという現実です。

つまり、誤解されているのです。誤解されたまま、求人広告費用を大々的にかけて、とにかく認知を得ようとしてしまっては逆効果になります。

沖縄は本土よりは狭い島です。一気に短期間で認知を得ようと予算を投下するより、地道に丁寧に良質な口コミを生むこと。それだけでもあっという間に認知は広がります。一度信頼されれば、沖縄の人ほど義理堅く寛容な人たちはいない。沖縄進出20年。苗字を見れば沖縄出身ではないとすぐに分かるのに、とても温かく受け入れてもらえている私は、そう思っています。

◇執筆者プロフィル

小宮 仁至(こみや ひとし) ファンシップ株式会社 代表取締役

広告会社やWEBマーケティング会社を経て、2015年にファンシップ(株)を創業。2016年より「レンアイ型Ⓡ採用メソッド」を提唱し、企業へのセミナーや求職者への採用支援を実施している。
1979年生まれ 熊本県出身。うちな〜婿で2児の父。