政府の観光需要喚起策「全国旅行支援」は、10月11日の開始から1カ月が経過した。旅行代金の割引が沖縄観光への客足をけん引するほか、地域クーポンの効果で土産品店や飲食店なども潤いを見せる。一方で、地域クーポンの発行処理に人手を取られるホテル業界から、事業の運用面に苦言を呈する声もある。
沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)は10~12月の入域観光客数の見通しを184万2600人(国内客182万人、海外客2万2600人)としている。全国旅行支援もあって国内客はコロナ前の19年と同水準になると見込み、旅行支援と同時に実施された国際線の水際対策緩和によってインバウンド(訪日客)需要も徐々に回復傾向にある。
売れ行き好調
県内10店舗を構える菓子製造・販売の御菓子御殿は全国旅行支援が始まった10月11日から今月6日までに、1枚千円の地域クーポンが9万9千枚利用された。
9月と比較し売り上げが2倍以上になる日もあり、久田友次郎営業本部長は「在庫から出すとすぐに売り切れてしまう。10月から松尾工場を動かしているが、人手不足も重なり製造が追いついていない」とうれしい悲鳴を上げる。
県内でステーキ店などを展開するキャプテンズグループでは、修学旅行生の地域クーポン利用などが多く、売り上げは堅調に推移している。キャプテンズイン国際通り店の10月の売り上げは9月比で300万~400万円ほど増えており、担当者は「たくさんの利用があり、ありがたい」と話した。
準備の負担重く
一方で、地域クーポンを準備するホテル側からは、作業負担への不満も少なくない。地域クーポンは事務局ではなく、ホテルのスタッフが1枚ずつ手作業で用意して宿泊客に発行するためだ。
ホテル名の印を押し、ウェブでの登録作業としてクーポンの裏にあるQRコードをスキャンして、チェックアウトの日付を書かなければならない。平日宿泊の場合は1人当たり3千円分の地域クーポンを千円単位で配布するため、スタッフは1日当たり3枚ずつ準備する必要がある。
修学旅行などの団体客には大量のクーポン発行に対応する必要がある。那覇市のホテルアザットの日山善博支配人は「600枚を作るのに1人で3時間かかる。人員不足の中で2人以上の人を割くわけにいかない」と吐露した。
ノボテル沖縄那覇では、地域クーポンの準備作業などで早番のスタッフが夜まで残業することもあるという。坂本公敏総支配人は「レストランの運営を止めてオペレーションに回したりしている。本来のものではない業務が増えて、スタッフの疲労度が上がっている」と語った。
旅行代金の40%割引については、ホテルや旅行会社などが一時的に立て替えることになっており、業界に「負担する金額は膨大だ」という声がある。制度開始前から入っていた予約にも遡及(そきゅう)して割引の対象とする方式についても、沖縄ツーリスト(OTS)の東良和会長は「前から決まっていた修学旅行などもさかのぼって払い戻しが生じ、負担は大きい」と指摘した。 (與那覇智早)
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全国旅行支援 新型コロナウイルス禍で客足が落ち込んだ観光業界を支援する政府の事業。都道府県内や隣県などが対象だった旅行割引「県民割」を全国に広げる形で実施している。旅行代金は40%引きで、割引の上限は鉄道など交通費込みパック旅行が8千円、宿泊のみと日帰り旅行は5千円。このほか、買い物や飲食に使えるクーポンを平日は3千円分、休日は千円分配る。