【全文】辺野古抗告訴訟 最高裁判所の判決全文


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最高裁判所(資料写真)

 2022年(行ヒ)第92号
 判決
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 別紙当事者目録記載のとおり
 上記当事者間の福岡高等裁判所那覇支部21年(行コ)第1号公有水面埋立承認取消処分取消裁決の取消請求事件について、同裁判所が21年12月15日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。よって、当裁判所は、次のとおり判決する。

 主文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。

 理由
 上告代理人加藤裕ほかの上告受理申立て理由について

 1 沖縄県副知事は、上告人の執行機関として、沖縄防衛局に対し、普天間飛行場の代替施設を沖縄県名護市辺野古沿岸域に設置するための公有水面の埋立て(以下「本件埋立事業」という。)に関してされた公有水面埋立法42条1項に基づく承認につき、事後に判明した事情等を理由とする取消し(以下「本件承認取消し」という。)をしたが、国土交通大臣は、地方自治法255条の2第1項1号の規定(以下「本件規定」という。)による同局の審査請求を受けて、本件承認取消しを取り消す裁決(以下「本件裁決」という。)をした。本件は、上告人が、同大臣の所属する行政主体である被上告人を相手に、本件裁決の取消しを求める事案である。

 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
 (1)公有水面埋立法42条1項の規定により都道府県が処理することとされている事務は法定受託事務である(同法51条1号、地方自治法2条9項1号)ところ、本件規定は、法定受託事務に係る都道府県知事その他の都道府県の執行機関の処分についての審査請求は、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、当該処分に係る事務を規定する法律又はこれに基づく政令を所管する各大臣(国家行政組職法5条1項に規定する各省大臣等をいう。以下同じ。)に対してするものとする旨を規定する。

 (2)沖縄防衛局は、我が国とアメリカ合衆国との間で返還の合意がされた沖縄県宜野湾市所在の普天間飛行場の代替施設を設置するため、13年3月22日、沖縄県知事に対し、同県名護市辺野古に所在する辺野古崎地区およびこれに隣接する水城の公有水面の埋立て(本件埋立事業)の承認を求めて、公有水面埋立承認願書を提出した。当時の沖縄県知事は、この出願につき、公有水面埋立法4条1項各号の要件に適合すると判断して、同年12月27日、同法42条1項に基づく承認をした。

 (3)沖縄県副知事は、沖縄県知事の職務代理者(地方自治法152条1項)から同法153条1項に基づく委任を受け18年8月31日、沖縄防衛局に対し、前記承認の後に判明した事情によれば本件埋立事業は公有水面埋立法4条1項1号および2号の各要件に適合していないこと等を理由として、前記承認を取り消した(本件承認取消し)。

 (4)沖縄防衛局は、本件承認取消しに不服があるとして、18年10月17日、本件規定により、国土交通大臣に対して審査請求をした。同大臣は、19年4月5日付で、本件承認取消しは違法かつ不当であるとして、これを取り消す裁決(本件裁決)をした。

 (5)上告人は、本件裁決に不服があるとして、19年8月7日、被上告人を相手に、本件裁決の取消しを求める本件訴えを提起した。

 3 (1)本件裁決は、法定受託事務に係る上告人の執行機関の処分である本件承認取消しについて、その相手方である沖縄防衛局がした本件規定による審査請求を受けて、公有水面埋立法を所管する国土交通大臣によりされたものである。

 (2)ア 行政不服審査法は、行政庁の違法または不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の教済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とするものである(同法1条)。同法により、行政庁の処分の相手方は、当該処分に不服がある場合には、原則として、処分をした行政庁(以下「処分庁」という。)に上級行政庁がない場合には当該処分庁に対し、それ以外の場合には当該処分庁の最上級行政庁に対して審査請求をすることができ(同法2条、4条)、審査請求がされた行政庁(以下「審査庁」という。)がした裁決は、当該審査庁が処分庁の上級行政庁であるか否かを問わず、関係行政庁を拘束するものとされている(同法52条1項)。

 イ 都道府県知事その他の都道府県の執行機関の処分についての審査請求は、上記アの行政不服審査法の定めによれば、原則として当該都道府県知事に対してすべきこととなるが、その例外として、当該処分が法定受託事務に係るものである場合には、本件規定により、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、当該処分に係る事務を規定する法律またはこれに基づく政令を所管する各大臣に対してすべきものとされている。その趣旨は、都道府県の法定受託事務に係る処分については、当該事務が「国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるもの」という性質を有すること(地方自治法2条9項1号)に鑑み、審査請求を国の行政庁である各大臣に対してすべきものとすることにより、当該事務に係る判断の全国的な統一を図るとともに、より公正な判断がされることに対する処分の相手方の期待を保護することにある。

 また、本件規定による審査請求に対する裁決は、地方自治法245条3号括弧書の規定により、国と普通地方公共団体との間の紛争処理(同法第2編第11章第2節第1、第2款、第5款)の対象にはならないものとされている。その趣旨は、処分の相手方と処分庁との紛争を簡易迅速に解決する審査請求の手続における最終的な判断である裁決について、さらに上記紛争処理の対象とすることは、処分の相手方を不安定な状態に置き、当該紛争の迅速な解決が困難となることから、このような事態を防ぐことにあるところ、処分庁の所属する行政主体である都道府県が審査請求に対する裁決を不服として抗告訴訟を提起することを認めた場合には、同様の事態が生ずることになる。

 ウ 以上でみた行政不服審査法および地方自治法の規定やその趣旨等に加え、法定受託事務に係る都道府県知事その他の都道府県の執行機関の処分についての審査請求に関し、これらの法律に当該都道府県が審査庁の裁決の適法性を争うことができる旨の規定が置かれていないことも併せ考慮すると、これらの法律は、当該処分の相手方の権利利益の簡易迅速かつ実効的な救済を図るとともに、当該事務の適正な処理を確保するため、原処分をした執行機関の所属する行政主体である都道府県が抗告訴訟により審査庁の裁決の適法性を争うことを認めていないものと解すべきである。

 (3)そうすると、本件規定による審査請求に対する裁決について、原処分をした執行機関の所属する行政主体である都道府県は、取消訴訟を提起する適格を有しないものと解するのが相当である。

 4 したがって、本件規定による審査請求に対してされた本件裁決について、原処分である本件承認取消しをした執行機関の所属する行政主体である上告人は、取消訴訟を提起することができない。

 5 以上によれば、上告人が提起した本件裁決の取消しを求める本件訴えを却下すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は採用することができない。

 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

 最高裁判所第一小法廷
 裁判長裁判官 山口厚
 裁判官 深山卓也
 裁判官 安浪亮介
 裁判官 岡正晶
 裁判官 堺徹