【識者談話】安保3文書「安保のジレンマ」懸念 野添文彬・沖国大准教授


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野添文彬氏

 今回の安保関連3文書は、専守防衛を堅持してきた日本の安全保障政策の大転換と受けとめられる。「専守防衛に徹する」と書いてはいるが、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有は専守防衛を事実上転換したと言っていい。

 背景にあるのは、西太平洋における米国の圧倒的な軍事的優位が中国の台頭で揺らいでいることにある。それを日本が軍事面で補完するというということだ。日本は米中対立の最前線で、いわば「先兵」として米国の側に立って中国に対抗する姿勢を鮮明にした。

 陸上自衛隊第15旅団の師団化も、沖縄にいる米海兵隊第3海兵遠征軍(3MEF)との連携強化が主眼にあるのではないか。師団長の階級は陸将で、3MEFのトップと同等となる。自衛隊と海兵隊がより連携していくことへの表れだ。

 敵基地攻撃能力とは、米国とトマホークなどのミサイルを共同運用し、日米の一体化が進むことに他ならない。しかし、中国は既に数千発のミサイルと核兵器も保有する。日本が反撃能力を保有してもどれほど意味があるのか。

 推進派の議論はアメリカの核戦略と一体化することを主眼にする。つまり、中国が手を出したら日本がミサイルを撃つ。それでも反撃されたら米国が撃つ。それでも抑止が効かない場合は、中国を核兵器で攻撃をする。このエスカレーションの中に日本の反撃能力は位置付けられているということだ。

 日本が反撃能力を持つだけで中国を抑止できるとみるのは間違いだ。中国は対抗策を打ち、地域の緊張はさらに高まり、「安全保障のジレンマ」に陥りかねない。

 基地の「共同使用」の意味も変化した。これまでは訓練のために行われたが、有事のための基地の共同使用が加わった。また、火薬庫の共同使用も盛り込まれた。中国のミサイルの射程内で、危険を承知の上で日米が補給を一体化し長期にわたって戦う能力を高めることを重視している。

 これまでの議論は基地の共同使用で抑止力を高めつつ、沖縄の基地負担軽減も両立させるはずだった。ところが今回の3文書では沖縄の基地負担軽減は後退した。軍事力強化の本音がより前面に出てきたと言える。沖縄の基地負担はさらに高まり、戦争に巻き込まれるリスクが高まった。

(談、国際政治学)