【WEB限定】F15退役、米軍嘉手納基地の今後を読み解く㊤ 米空軍の戦略転換と中国の動向


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米軍嘉手納基地(資料写真)

 米国が海外に有する最大の空軍基地・嘉手納飛行場。米空軍は同基地に常駐する戦闘機「F15」の全てである54機について、老朽化を理由に今後2年をかけて退役させると発表した。退役作業の間の対応として、米アラスカ州エレメンドルフ空軍基地空軍基地に所属するF22ステルス戦闘機を切れ間なくローテーション(巡回)配備させる計画だ。一方、嘉手納に常駐するF15の後継機は決まっておらず、長期的な配備計画は未定。不透明なままF15の退役作業が進むことに「抑止力が低下する」と指摘する専門家もいる。一方、中国のミサイル能力が近年急速に増し、沖縄の基地は仮にその標的になれば機能不全に陥るとして、むしろ航空戦力の分散を求める提言もなされてきた。今回のF22巡回配備はその一環だと分析する声もあり、嘉手納基地の動向に注目が集まっている。

(島袋良太)

■「ハブ&スポーク」方針で拠点は変わらず

今後2年かけて退役作業が進む嘉手納基地所属のF15戦闘機=6月9日、北谷町上空

 嘉手納基地のF15退役に伴い、別の基地に所属する戦闘機のローテション配備へと切り替わることについて、米専門家からはさまざまな評価が上がる。

 ジョンストン元米国防総省北東アジア部長は、英紙フィナンシャル・タイムズに「台湾の状況を注視している状況下、日本政府には懸念のシグナルを送る」と批判的にコメントした。

 一方、メデイロス元米国家安全保障会議アジア上級部長は同紙に対し、嘉手納基地は中国のミサイルに対して脆弱になったことを認め、常駐ではないローテーション配備方式には「利点」もあると分析。ただ「日本政府からは米国の関与低下と受け止められるだろう」とし、戦略の板挟みに直面していると解説した。

 米軍準機関紙「星条旗新聞」ではガンヤード元米国務次官補が「中国との紛争で第一列島線、特に嘉手納に生き残れるものは何もないという現実に、米空軍が対処しようとしていると見ることができる」とコメントした。

 ただ嘉手納基地側は、2年にわたるF15退役作業後を見据えた常駐部隊の再配備を前提とする立場を崩していない。同盟国から「撤退した」と見られる、あるいは中国から「隙ができた」と捉えられないようにする考えからだ。

 嘉手納基地を運用する第18航空団は、今後も嘉手納が太平洋における空軍力の中心拠点だと位置付けた上で、空軍力の「ハブ(中心拠点)&スポーク(拠点)」の構築に向けた分散化を図る方針だ。嘉手納基地そのものを「強靱化」することと平行して、他にも利用できる拠点を急ピッチで構築する狙いがある。

■200機破壊予測も

 中国軍の動向について、近年衝撃を与えたのは米有力軍事シンクタンク「ランド研究所」が2015年に公表した論文「アジアの空軍基地に対する中国の攻撃」だ。論文は1996年段階で中国軍は台湾や韓国だけを射程に入れる短距離ミサイルを10発程度しか保有していなかったが、現在は既に1200発以上もの短距離ミサイルや中距離ミサイルなどを保有すると指摘。その能力は、10年の段階で嘉手納基地を「4~10日閉鎖できる」状態だったのが、17年には「16~43日まで」閉鎖できるようになったと分析した。この対抗策として、米軍
の航空機を分散して「中国が攻撃しなければならない滑走路を増やす必要がある」と提言している。

 また17年には米有力シンクタンク「新米国安全保障センター(CNAS)」が開催したイベント「アジアの米空軍基地に対する中国のミサイル先制攻撃」に、同シンクタンクで客員研究員を務める米海軍将校が登壇。中国の短距離ミサイルは既に約1200発が嘉手納をも射程内に入れ、200~300発の中距離弾道ミサイルも保有していると指摘した。これらはわずか6~9分で日本に到達し、最初の数時間で日本にある米軍機「200機以上」を破壊できるとの推定を明らかにした。これに対処するには、ミサイル防衛システム構築を強化すべきだと提言した。ただ、特に沖縄の基地については「被害は軽減できても、なお被弾数で圧倒される」と悲観的な見方を示した。

 米空軍自身、こうした状況に対してより柔軟な展開を探るため、この数年で新たな戦略方針を打ち出すようになっている。「AGILE COMBAT EMPLOYMENT(迅速機敏な戦力展開)」、通称「ACE(エース)」と呼ばれる戦略だ。

 米空軍は今年8月には、ACEに関する基本方針を公表。この中で「空軍基地はもはや攻撃からの『聖域』とは考えられない」と明確にした。既存の固定基地が脆弱になっていることを認め、ミサイル防衛の強化などで基地の堅牢化を図ると同時に、空軍力の分散を進め、基地が攻撃を受けた際のバックアップ体制の構築を進める方針を打ち出した。

 米空軍はF15を今後2年をかけて退役させていく流れの中で、その都度F22を巡回配備させ、現有戦力との間で「ギャップ」が生じないにようにすると強調している。嘉手納基地は第一陣となるF15の退役に合わせ、11月には14機のF22がアラスカから飛来した。

 一方、嘉手納から今後退役するF15の総数は2飛行体、全54機に上る。この補完として巡回配備されるF22は、米アラスカ州を本拠地としているが、米空軍はこれとは別に、今年8月からアラスカ所属のF22を12機、ポーランドに派遣している。隣国ウクライナを侵攻したロシアをけん制するためだ。今後も米軍がアラスカのF22を「ギャップ」なく嘉手納に派遣できるかは不透明だ。

 米軍はドイツのシュパングダーレム空軍基地に配備しているF16戦闘機を嘉手納に追加で巡回配備することも検討されているとの海外報道もある。だがドイツも同じくロシアに近接しており、米国にとってはこの地域から嘉手納に戦闘機を派遣すれば、ロシアへのけん制が手薄になるというジレンマも抱える。

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