【WEB限定】F15退役、米軍嘉手納基地の今後を読み解く㊦ 日本全体で進む「一体化」


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米軍嘉手納基地(資料写真)

 中国軍のミサイル攻撃能力が近年急速に増す中、米空軍は前方展開基地がかつてより脆弱になったことを認め、新たな戦略を打ち出している。「AGILE COMBAT EMPLOYMENT(迅速機敏な戦力展開)」、通称「ACE(エース)」と呼ばれる戦略だ。嘉手納基地を太平洋上の拠点としてきた米空軍は「ハブ(中心拠点)&スポーク(拠点)」の構築を進め、ミサイル攻撃に備えたリスク分散を図る方針だ。同盟国である日本、そして在日米軍専用施設の7割が集中する沖縄ではどんな動きが起こり得るのか。米空軍は基地や航空機へのミサイル攻撃に備える策として、軍民を問わず同盟国や友好国が保有する滑走路の利用促進を近年打ち出すようになった。米空軍の航空戦力が県内外のさまざまな滑走路を利用する将来図も想定される。

(島袋良太)

>>㊤はこちら「米空軍の戦略転換と中国の動向」

 米空軍が今年8月に公表したACEに関する基本方針では、作戦の拠点(スポーク)の数と質が増えるほど、ACE戦略の機能が高まるとしている。今後、嘉手納を「ハブ」(中心拠点)とする第18航空団が各地に作戦拠点を増やそうとすることが予想されるが、その具体的な協議は沖縄ではなく、東京の日本政府と在日米軍で行われる枠組みとなるという。

 ACEにおける、部隊配置に関する重点項目は次の5点となっている。(1)機器や消耗品の事前配置(2)拡大縮小が可能な兵たんパッケージ(3)パートナー国の軍用・民用滑走路を含む前方作戦地へのアクセス(4)競合、劣化、または運用上の制限がある場合でも機能する回復力のある通信環境(5)競合する環境下での大規模な戦闘作戦に最適化された部隊―。とりわけ(3)については、友好国の軍民両方の滑走路の使用や上空飛行はACEの成功に不可欠だとし、友好国との間で多岐にわたる合意を進める「政府包括的アプローチ」が必要だとしている。同盟国や友好国にとっては、米軍との「一体化」をより求められることになる。

■共同訓練も活発に

 米空軍が出したACEの基本方針が友好国の「軍民滑走路」への米軍のアクセス拡大を求めている以上、県内でもいくつかの施設の可能性が取り沙汰されそうだ。例えば宮古島市の下地島空港は3千メートル級の滑走路を擁するが、1971年に日本政府と琉球政府の間で民間機以外の使用を認めないとする「屋良覚書」が存在する。しかしこのところ、防衛力強化に関する政府の有識者会議が南西諸島の空港や港湾を「特定重要拠点空港・港湾」(仮称)に指定する考えを盛り込んだ。有識者会議が今月22日にまとめた報告書はその対象について「特に先島諸島」と明記。下地島空港がとりわけ念頭にあるとされる。当然、その先には、米軍による使用も議論されていくと考えるのが自然だ。
 

米アラスカ州から米軍嘉手納基地にローテーション配備されたF22ステルス戦闘機=11月4日(又吉康秀撮影)

 米専門家からミサイル攻撃に対する脆弱性が指摘されている嘉手納基地は、無給油で台湾海峡に到達できる唯一の主要な米軍基地だとされる。そのため、航空戦力を分散化させる一環として、同じく南西諸島にある3000メートル級滑走路の下地島空港へのアクセス権を米軍が主張する可能性は、十分想定される。

 また11月に実施された日米共同統合演習「キーン・ソード23」では、自衛隊が与那国空港を初めて使用した。自衛隊と米軍は共同訓練に伴い、与那国に情報や認識をすり合わせる「調整所」を設置した。現状で前面に立っているのは自衛隊だが、共同演習である以上、その情報も共有されていることは想定される。07年には米海軍の艦艇が与那国島を「友好親善」名目で地元の反対を押し切って初めて寄港したが、その後に与那国を「台湾有事の際の作戦拠点となり得る」と米側が本国に報告していた。

■県外でも「初利用」増える

 一方、県外でも米軍による「未利用資源」の発掘が急速に進んでいる。米空軍は11月21日、鹿児島県にある海上自衛隊鹿屋航空基地に無人偵察機MQ9を運用する部隊を初めて一時展開させた。また米空軍が1958年に日本に返還し、飛行部隊が配備されずに通常はほとんど使用されてこなかっ北海道の「計根別場外離着陸場」(航空自衛隊管理)も、10月に実施された日米共同訓練で米海兵隊のMV22オスプレイが初めて使用された。

 これまで米軍による利用実績のなかったインフラについて、利用実績を積む訓練が国内各地で行われ、米軍の計画に基づく「ハブ&スポーク」構築に向けた動きが加速しているように映る。

(了)