>>経済発展のための自衛隊誘致…町民に実感なく 進む「島の要塞化」からの続き
政府は昨年末、安保関連3文書に基づく南西防衛強化に向けて、次年度予算で与那国島へ地対空ミサイル部隊を配置し、敷地を拡張する方針を示した。有事の際、相手の指揮系統を混乱させる作戦を担う「電子戦部隊」も新編するなど、より「実戦」に即した部隊も配備する。増強に伴い、隊員数は現在の約170人から約210人へと増える見通しだ。
自衛隊の誘致活動を展開した前町長の外間守吉氏(73)は「町の総人口に対し、4分の1以上の自衛隊員が来るのはいけない。人口15%以内にしてくれと政府に言ってきたが、これ以上増えるのは想定していない」と隊員数の増加にも厳しい視線を送った。
駐屯地の新設から6年が経過し、与那国ではかつてのように、賛否を巡る論争は起きていなかった。だが、昨年11月以降、立て続けに実施された米軍と自衛隊による合同演習やミサイル部隊の配備計画を巡り、島では駐留に賛成してきた保守層からも、反対や戸惑いの声が上がる。
嵩西茂則与那国町漁協組合長(60)は「既成事実を積み上げている。現在の監視部隊は賛成している人でも、最初からミサイルが来ると分かっていれば賛成しなかった。踏み込んでいる部隊だからだ。賛成派は監視部隊が過疎化対策になるとして利害が一致したので呼んだはずだ」と指摘する。
町議で、与那国防衛協会副会長の大宜見浩利氏(65)も自衛隊との「共存」に賛成の立場だが、急速に変わる島の環境に「また島を二分してしまうのではないか」と危機感を示す。「米軍との訓練をしたり、説明なしに新たなミサイル部隊を配備したりするやり方はまずいと思う」と指摘した。
安保関連3文書は、急速な軍事力増強を続ける中国を念頭に南西諸島への自衛隊の大幅な配備増強を打ち出し、与那国駐屯地の任務は、従来の「沿岸監視」から飛躍的に拡大することになる。政府の公式な説明がない中、自衛隊部隊の拡張方針に地域コミュニティーが揺れている。
(池田哲平、西銘研志郎)
連載「自衛隊南西シフトを問う」
2010年の防衛大綱で方向性が示された自衛隊の「南西シフト(重視)」政策の下、防衛省は奄美、沖縄への部隊新編、移駐を加速度的に進めてきた。与那国、宮古島に続き、今年は石垣駐屯地が開設される。22年末には戦後日本の安全保障政策の大転換となる安保関連3文書が閣議決定され、南西諸島の一層の軍備強化が打ち出された。南西シフトの全容と狙い、住民生活への影響など防衛力強化の実像に迫る。