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「これがリアル」台湾から響く演習音 募る不安、見えぬ安全策…与那国の苦悩㊦<自衛隊南西シフトを問う>2


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
地対空ミサイル設置などさらなる拡張・増強が計画される陸上自衛隊与那国駐屯地=2022年11月

2021年12月中旬の深夜のことだった。与那国町漁協の嵩西茂則組合長(60)は、島の南西沖から響く異音に気付いた。「爆撃のようなドーン、ドーンという音」は雷鳴のように低く重く、数十分間続いた。そしてそれは22年1月の深夜にも鳴った。与那国町によると台湾軍の演習による砲弾の音だとみられる。

「これがリアルだ。石垣、沖縄本島も大変だと言うが、与那国ほど直接的な肌感覚はない」。糸数健一町長(69)は国境の島で感じる有事の危機感と、他の地域との温度差を口にする。

「この島に住まないと分からない」国境の島与那国の糸数町長に聞く現状

日本の最も西に位置する与那国島と、台湾との距離はわずか111キロ。晴れた日には水平線の上に、3千メートル級の台湾の山並みが影のように浮かび上がる。22年は台湾・花蓮市と姉妹都市締結40年の節目を迎え、今後の友好関係を誓い合った。

弾道ミサイルに備えた訓練で、誘導に従い避難する人たち=2022年11月30日、与那国町

そんな地理的、心理的にも近い与那国と台湾との海域は今、米中対立の「最前線」として軍事的な波風が高まっている。

22年8月、ペロシ米下院議長(当時)の訪台に端を発した中国の軍事訓練で、日本の排他的経済水域(EEZ)内の波照間島や与那国島周辺にも弾道ミサイルが落下。島の漁師は出漁制限に追い込まれた。

同12月には今後5年間で台湾に最大100億ドルを軍事支援することを盛り込んだ23会計年度の国防権限法案が米議会上院で可決。中国はすぐさま反応し、台湾周辺の海空域で大規模な軍事演習を実施した。

周辺での偶発的な衝突が「台湾有事」の引き金になりかねないという危機感は、与那国島全体を重苦しい空気で包む。こうした中で政府は陸上自衛隊与那国駐屯地の機能を拡張し、今後は地対空ミサイル部隊を配備する方針を固めた。

糸数町長は「(駐留する)沿岸監視部隊だけで島を守れるのか。これ以上増強してほしくないという人もいるし、葛藤は当然ある」と述べ、町民の受け止めもさまざまに揺れることを認める。

駐屯地の強化が着々と進むのとは対照的に、島民の安全確保策はおぼつかない。安保関連3文書の国家安全保障戦略は「自衛隊・海上保安庁による国民保護への対応」と明記した。ただ、有事の際に自衛隊の主たる任務は武力攻撃の排除であり、住民避難や救援の支援は「(任務に)支障のない範囲」で行うとする姿勢は変えていない。

昨年11月30日、与那国島では弾道ミサイルに備えた住民避難訓練が初めて実施された。町は「台湾有事」を想定し、事前に島外への避難を求める町民に旅費などを支給する基金の設置を進める。町役場の担当者は行政として危機管理の必要を認めつつ「こうした準備は使わないことが一番だ」と強調する。

国境の島で、住民、自治体は「安全」を守るすべを模索している。(池田哲平、西銘研志郎)

連載「自衛隊南西シフトを問う」

2010年の防衛大綱で方向性が示された自衛隊の「南西シフト(重視)」政策の下、防衛省は奄美、沖縄への部隊新編、移駐を加速度的に進めてきた。与那国、宮古島に続き、今年は石垣駐屯地が開設される。22年末には戦後日本の安全保障政策の大転換となる安保関連3文書が閣議決定され、南西諸島の一層の軍備強化が打ち出された。南西シフトの全容と狙い、住民生活への影響など防衛力強化の実像に迫る。

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