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港周辺の軍事拠点化加速 奄美の危機感 「他国を刺激」住民葛藤<自衛隊 南西シフトを問う>3 


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日米共同統合演習「キーン・ソード」で12式地対艦誘導弾を展開する自衛官たち=2022年11月16日、鹿児島県奄美市の奄美駐屯地

陸上自衛隊奄美駐屯地のある鹿児島県奄美市から車で約1時間、国道58号を南下すると、大島海峡に面する古仁屋港がある。旧海軍の港として使っていた過去もあるが、現在は漁船やフェリー、輸送船が使用し、奄美大島の漁業や交通、物流を支える拠点の一つだ。防衛省はこの古仁屋港周辺を主な候補地として新たな自衛隊の輸送・補給拠点整備を計画している。地対艦誘導弾(ミサイル)が配備され、弾薬庫5棟を建設中の瀬戸内分屯地からも車で約20分だ。近くには海自部隊も配備されており、防衛省は適地と目する。

日米共同統合演習「キーン・ソード」で奄美駐屯地に医療拠点を設け、負傷兵役を手当てする自衛隊員と米軍関係者ら

古仁屋港で漁の準備をしていた漁船「豊島丸」の船長(62)は、自衛隊施設が新設されれば風よけとなって波の流入を防ぐことを期待しているという。不安や懸念については「(有事に)狙われる可能性はあるよね。けど、なるようにしかならんからな。もう仕方ない」とこぼした。

政府は南西諸島で防衛に役立つと判断した港湾や空港を「特定重要拠点」に指定して優先的に予算を配分する仕組みを設けるなど、有事に使える拠点を増やそうと模索する。瀬戸内町の古仁屋港の例はその先行事例だ。防衛省関係者は「歴史や県民感情から調整が難航する沖縄県内と比べ、奄美は先に進めやすい」と話した。

防衛省は2019年、奄美大島に陸自駐屯地を開設。ミサイル部隊に加え、電子戦部隊も配備された。自衛隊弾薬庫の建設が進み、米軍も訓練するようになった。今後、ミサイルが長射程化され、政府の「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有体制に組み込まれる可能性もある。

地域と自衛隊の橋渡しを担う奄美市防衛協会青年部会の有島範明会長(53)はウクライナ情勢を踏まえ「戦争が現実に起こるんだと分かった。仲良くしている若い隊員が『戦争に行くことになった』とあいさつに来る夢まで見た」と話した。「そうならないためにも、自衛隊にいてもらってどんどん訓練してほしい」と強調した。

一方、子ども3人と名瀬運動公園を訪れていた40歳女性=奄美市、看護師=は「危ないから(駐屯地を)置くのも分かるが、子どもたちが巻き込まれないか怖い。訓練で他国を刺激し、自衛隊のいる奄美が目を付けられないか」と不安を口にした。

陸自配備から約4年、地域との関わりを強める一方、駐屯地開設後に加速する機能強化に危機感が広がる。琉球弧の軍事拠点化は、地域に葛藤を強いながら進んでいる。
(明真南斗)

連載「自衛隊南西シフトを問う」

2010年の防衛大綱で方向性が示された自衛隊の「南西シフト(重視)」政策の下、防衛省は奄美、沖縄への部隊新編、移駐を加速度的に進めてきた。与那国、宮古島に続き、今年は石垣駐屯地が開設される。22年末には戦後日本の安全保障政策の大転換となる安保関連3文書が閣議決定され、南西諸島の一層の軍備強化が打ち出された。南西シフトの全容と狙い、住民生活への影響など防衛力強化の実像に迫る。

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