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全容を語らない防衛局の「説明行脚」 困惑の市町村「『攻撃部隊』は来ないと思っていた」<自衛隊南西シフトを問う>7


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
沖縄防衛局による与那国町と町議会への説明会=10日、与那国町構造改善センター

昨年末の安保関連3文書の改定を受け、沖縄防衛局の小野功雄局長は年明けから、自衛隊施設の拡充や新設などが予定されている県内市町村の首長や議会関係者に計画を伝える「説明行脚」を展開している。「説明」に訪れているはずが、一部自治体からは「説明不足」との声が上がり、全自治体から住民説明会の要望も。防衛省の自衛隊に関する計画は、全容を明らかにせず情報を後出しし、当初の予定がなし崩しで変わっていくことが常態化。自衛隊配備に賛成する関係者も不信感をあらわにする。

10日夕、小野局長は石垣市役所を訪ねた。面談後、中山義隆石垣市長は本年度中に開所する石垣駐屯地について、こう断言した。「石垣島に配備されるのは地対艦・地対空誘導弾の部隊という話で、相手の基地を攻撃できるようなミサイルの配備などの話は今のところ全く予定はない」

安保3文書の国家安全保障戦略には、遠方から相手の基地をたたく反撃能力(敵基地攻撃能力)を担うスタンド・オフ・ミサイルの保有を初めて明記し、憲法に基づく日本の専守防衛の安全保障戦略を変容させた。有事の際は相手から攻撃される可能性も指摘される。

小野局長はこれまで沖縄市と与那国町、石垣市、宮古島市、うるま市の首長や議会関係者を訪ねた。各地で反撃能力の配備先について尋ねられたが、「現時点では計画はない」などと明言しなかった。

ただ、3文書では既に陸上自衛隊宮古島駐屯地に配備され、これから石垣駐屯地、勝連分屯地にも配備される12式地対艦誘導弾(SSM)の能力向上型を開発する方針が明記される。向上型は早ければ2026年度から部隊配備されるスタンド・オフ・ミサイルだ。

政府は計画を立てながらも、正式決定していなかったり、装備を配備する順番が決まっていなかったりした場合、否定する事例は過去にもあった。米軍普天間飛行場への垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの配備を巡っても1996年の段階で米側から計画を伝えられていたが、日本政府は2010年までオスプレイ配備計画を公に認めなかった。

向上型の県内配備について、ある自衛隊関係者は「もちろんいっせいに代えることはできず、どの順番で配備していくかは未定だが後継の装備なので基本的にはどの部隊も置き換えていくことになるだろう」とスタンド・オフ・ミサイルの県内配備は既定路線とした。別の防衛省関係者も「先島の優先順位を下げて、配備を後回しにする理由が立たない」と指摘した。

与那国町では10日午前に町と町議会に対する説明会が開かれた。防衛局は電子戦部隊の移駐や与那国駐屯地を拡充し、地対空誘導弾部隊などを新たに配備する方針を初めて示した。出席者によると、自衛隊配備に理解のある町議からも誘導弾部隊の新設に対しては困惑の声が上がった。崎元俊男議長は「今ある沿岸監視部隊はいわゆる『守りの部隊』であって、『攻撃部隊』は来ないと思っていた。だからそこまで危機感を持っていなかった」と険しい表情を見せた。町は防衛局に住民説明会の開催を求めた。

「今の部隊配備も情報を小出しにして既成事実を重ねていった。その結果、自衛隊配備で島が二分し住民に禍根をもたらした。防衛局は3文書で示された反撃能力の配備や平時の空港と港の活用方法などを含めた全容を明らかにし、丁寧に住民合意を得るべきだ」。出席した田里千代基町議は自衛隊配備を巡って再び島が二分する事態に陥らないか憂慮を深める。
(梅田正覚、明真南斗)

連載「自衛隊南西シフトを問う」

2010年の防衛大綱で方向性が示された自衛隊の「南西シフト(重視)」政策の下、防衛省は奄美、沖縄への部隊新編、移駐を加速度的に進めてきた。与那国、宮古島に続き、今年は石垣駐屯地が開設される。22年末には戦後日本の安全保障政策の大転換となる安保関連3文書が閣議決定され、南西諸島の一層の軍備強化が打ち出された。南西シフトの全容と狙い、住民生活への影響など防衛力強化の実像に迫る。

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