prime

日米航空機の残骸や負傷者収容、仮設墓地も…机上演習で描かれた「甚大被害」 CSIS「台湾有事」の想定<自衛隊南西シフトを問う>8


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 嘉手納基地に(有事発生の)後から到着した部隊は、滑走路の脇に破壊された日米の航空機の残骸が並ぶ中、着陸する。基地内の病院には数百人もの負傷者が収容され、多数の死者を収める仮設墓地も設けられている―。

 米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)が9日に公表した、中国が2026年に台湾へ侵攻したと想定した机上演習の結果報告書は、米軍嘉手納基地内の様子をこう描き出した。

 報告書が台湾防衛に必要な4条件の一つに挙げたのは、米軍が日本国内の基地を使用できることだ。自衛隊が戦争に参加しないことも中国の有利に働くと記述。日本が「台湾有事」に深く関与する重要性を強調した。

 戦争に関わることで自衛隊も甚大な被害を受け、航空機を平均122機、艦船を26隻失う。航空機被害のほとんどは地上で発生するとした。

 被害状況がシミュレーションされた嘉手納基地を始め、県内の米軍基地の多くが市街地に隣接している。民間地にも被害が広がることは避けられそうにない。

 また、日本の民間空港を軍用機が使用できるようにすることで、中国の攻撃による軍用機の被害を分散する必要性も指摘。昨年12月に閣議決定した安全保障関連3文書と同じ方向を示した。

 沖縄に海兵沿岸連隊と対艦ミサイルが配備されたことを前提とした想定もあった。これは今月12日に行われた日米の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)で合意した内容だ。

 政府の決定や沖縄の防衛力強化が中国との有事に巻き込まれることを念頭に進められていることが文書から浮かぶ。

 報告書はまた、米国などが台湾防衛に「勝利」を収めた後の世界にも言及する。中国軍による攻撃で米軍もまた大きな打撃を受け「“敗戦国”の中国よりも長期的には苦しむかもしれない」とした。対立する国の活発化を招き世界はさらに不安定化しかねないとした。

 小泉・安倍・福田・麻生政権の下で安全保障政策と危機管理を担当する内閣官房副長官補を務めた柳澤協二氏は「米国が戦争に勝ったとしても、米国主導の国際秩序は維持できず、かえって危うくなるとの認識を米国も持っている」と語る。

 一度戦争になれば、平和の構築に向けた対話のハードルはさらに上がってしまうとし「お互いが『戦争になるとまずい』という認識に立ち、妥協点を探す外交が求められている」と訴えた。
 (知念征尚)

 

連載「自衛隊南西シフトを問う」

 2010年の防衛大綱で方向性が示された自衛隊の「南西シフト(重視)」政策の下、防衛省は奄美、沖縄への部隊新編、移駐を加速度的に進めてきた。与那国、宮古島に続き、今年は石垣駐屯地が開設される。22年末には戦後日本の安全保障政策の大転換となる安保関連3文書が閣議決定され、南西諸島の一層の軍備強化が打ち出された。南西シフトの全容と狙い、住民生活への影響など防衛力強化の実像に迫る。

>>ほかの記事を読む