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「我が子か生徒か」強いられ…時短や部分休業は「努力不足」<先生の心が折れたとき 教員不足問題>第1部(4)中学校教員


「我が子か生徒か」強いられ…時短や部分休業は「努力不足」<先生の心が折れたとき 教員不足問題>第1部(4)中学校教員
この記事を書いた人 Avatar photo 嘉数 陽
子どもの預け先を確保できず、部活指導を副顧問に代わってもらうことが増えると保護者から苦情が入った(写真はイメージです。本文とは関係ありません)

 「仕事を続けたい。でももう限界です」。中学校教員の女性=30代=は数年前、涙をこらえながら管理職に適応障害の診断書を手渡した。育児短時間勤務も部分休業も「他の先生にしわ寄せがいくから」と取得を退けられ、仕事と子育てを両立できなくなった。「病休を取ります」。悔しさがこみ上げた。

 管理職からの返答は思いも寄らないものだった。「担任は他の人にさせる。授業だけやってくれないか。代わりがいないんだ」

 精神疾患になっても仕事を求めるのか―。学校から距離を置くことに迷いはなくなった。

■家族選べず

 家族は夫と子どもが2人。20代で中学校教員になり、10年以上になる。教員生活の中でこれまで何度も「自分の子か、生徒か」の選択を迫られた。そして自分の子を選ぼうとするたび、待ったがかかった。

 数年前、子どもが通う保育園が閉園になると知らせを受けた。転園先が見つからず、身内も近くにいない。育児短時間勤務か部分休業制度を利用したいと願い出たが「努力不足」と諭された。「保護者から生徒を預かっている責任がある。家族より生徒を優先すべきだ」「休んだ分、他の先生と子どもたちにもしわ寄せがいくよ」。制度については「利用した人を見たことがない。使う前に自分にできることをやって」と説得された。

 制度利用に否定的だったのは管理職だけではない。子育て経験のある同僚らにも「近所の人に頼めないのか」「家庭も仕事も守りたいのはみんな同じ」といさめられた。

 預け先を確保したものの、自分の生活を犠牲にするのが当たり前の風潮が納得できなかった。次第に心が暗くなり、適応障害と診断された。

■「やる気ない先生」

 「家族より生徒」は保護者からも求められた。病休前、技術的な指導をする主顧問として部活動も見ていた。土日は子どもを預けられず、副顧問に代わってもらうことが多い。すると保護者から「スポーツ推薦を狙っているのに困る」「やる気がない」と苦情が入った。管理職に相談したが「自分も昔は子どもを連れて指導していた。遊びに連れていく感覚で一緒に来るといい」と、まるで話にならなかった。

 今も病休中で心療内科への通院を続けている。それでも「教職は子どもの成長に立ち会えるすてきな仕事」と復帰を考えている。「自分の子と生徒を天秤(てんびん)にかけなければならない環境はおかしい。両方大事にできる環境になってほしい。本人の努力だけに任せないでほしい」。ぎゅっと拳を握りしめ、涙目で訴えた。

(嘉数陽)

【用語】育児休業制度

子どもが3歳になるまで取得可能。小学校入学まで、1日当たり3時間55分の勤務など5パターンの勤務形態を選択できる「育児短時間勤務制度」や、基本的に1日に2時間以内で、30分単位での取得が可能な「育児のための部分休業制度」もある。規定は「申請した職員の業務を処理するための措置を取ることが困難な場合などを除き、申請を承認しなければならない」などとしている。

 

連載「先生の心が折れたとき」

 精神疾患による教師の病気休職者が増え続けている。文部科学省の調査によると2021年度、全国の公立小中高・特別支援学校で過去最多の5897人。沖縄も過去10年間で最多の199人、在職者数に占める割合は全国で最も高い1・29%だった。心を病んだ理由はそれぞれだが、当事者の多くは要因の一つに、就業時間内に終えられるはずがない業務量を指摘する。休職者の増加は他の教員の業務負担につながり、さらに休職者が出る連鎖が起きかねない。心が折れてしまうほど多忙な教員の1日のスケジュールを取材した。

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