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F15退役後リスク分散化 公共インフラ利用の先に民間地狙いも<自衛隊南西シフトを問う>15


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
米本国に帰還するため離陸するF15戦闘機=2022年12月1日、米空軍嘉手納基地

米国が海外に有する最大の空軍基地・嘉手納飛行場。米空軍は昨年10月、嘉手納に常駐する全てのF15戦闘機を、老朽化を理由に今後2年をかけて退役させると発表した。波紋を呼んだのは「その後」の方針。米軍は後継機を決めておらず、退役作業を進める間はアラスカ州のF22戦闘機などを「巡回配備」させると表明した。常駐する戦闘機がなくなるとの観測に「抑止力が低下する」との声がある一方、中国のミサイル攻撃の標的になれば機能不全に陥るとして、航空戦力の分散を求める声も上がる。

中国軍の動向について、近年衝撃を与えたのは米有力軍事シンクタンク「ランド研究所」が2015年に公表した論文「アジアの空軍基地に対する中国の攻撃」だ。

論文は中国軍のミサイル攻撃は17年には嘉手納基地を「16~43日まで」閉鎖できるようになったと分析。対抗策として、米軍機を分散させ「中国が攻撃しなければならない滑走路を増やす必要がある」と提言している。

米空軍は前方展開基地がかつてより脆弱(ぜいじゃく)になったことを認め「ACE」(迅速機敏な戦力展開)と呼ばれる新たな戦略を打ち出す。嘉手納基地を「ハブ(中心拠点)」としつつ「スポーク(拠点)」の構築を進め、ミサイル攻撃に備えたリスク分散を図る。

米空軍が昨夏公表したACEに関する基本方針は「パートナー国の軍用・民用滑走路を含む前方作戦地へのアクセス」を「成功に不可欠」な要素として強調する。

こうした計画を追認するように1月12日に行われた日米の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)は、先に閣議決定した安全保障関連3文書を踏まえ米軍も含めた空港・港湾の「柔軟な使用」を進めることで一致した。

米海兵隊は翌13日に宮古島市の下地島空港の使用届を県に提出するなど、米軍の「触手」は既に広がりを見せる。

米シンクタンクの戦略予算評価センター(CSBA)が昨年11月に出した報告書の提言はさらに踏み込む。偵察や監視能力などを高められるとして、現在、海上自衛隊鹿屋航空基地(鹿児島県鹿屋市)に一時配備中の無人偵察機「MQ9」を沖縄に配備する必要性を指摘する。空軍と海兵隊に対し滑走路に依存せず運用できる安価な航空機を、周辺離島を含む沖縄全体に分散展開させる案も提示している。

自衛隊などによる公共インフラ使用の延長線上には、米軍が県内を縦横無尽に利用したいとの青写真もちらつく。
(知念征尚、島袋良太)

連載「自衛隊南西シフトを問う」

2010年の防衛大綱で方向性が示された自衛隊の「南西シフト(重視)」政策の下、防衛省は奄美、沖縄への部隊新編、移駐を加速度的に進めてきた。与那国、宮古島に続き、今年は石垣駐屯地が開設される。22年末には戦後日本の安全保障政策の大転換となる安保関連3文書が閣議決定され、南西諸島の一層の軍備強化が打ち出された。南西シフトの全容と狙い、住民生活への影響など防衛力強化の実像に迫る。

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