奄美大島より南の「防空」を任務とする航空自衛隊南西航空方面隊。1月、琉球新報の取材に応じ、第9航空団第304飛行隊の飛行訓練の様子を公開した。甲高いエンジン音が鳴り響く中、深緑色の航空服をまとったパイロットは機体の周りを丁寧に確認し、F15戦闘機の操縦席に乗り込んだ。那覇空港の滑走路の南側へゆっくりと移動した戦闘機は離陸を知らせるランディングライトを光らせると一気に加速し、空へと飛び立った。
南西航空方面隊は、全国に四つある方面隊の一つで、那覇空港に隣接する自衛隊那覇基地内に司令部を置く。レーダーサイトを運用する警戒管制団や、迎撃機能を担うパトリオットミサイルを運用する高射群、「防空」に関わる業務の中心となる第9航空団などで構成され、県の資料によると、2022年1月1日時点で約3600人の隊員が任務に当たる。
南西航空方面隊の中で最も比重が大きくなっている任務は、国籍不明機が、日本の領空を侵犯するおそれがある場合に、戦闘機を緊急発進(スクランブル)して、対処する「対領空侵犯措置」だ。航空自衛隊の緊急発進回数は、12年に日本が尖閣諸島を国有化して以降、中国への対処が増え、近年は900~千回程度の水準で推移する。22年度は22年4~12月の間、緊急発進は航空自衛隊全体で785回。対象国別で見ると中国機が約75%、ロシア機約22%、その他は約3%。南西航空方面隊の対応は414回で、52・7%を占める。
自衛隊が特に危惧するのが、飛行時間が長い無人機(UAV)による活動だという。UAVは18年に東シナ海で初めて活動が確認されて以降、沖縄周辺での飛行が増加。昨年8月、中国人民解放軍が先島諸島周辺で訓練空域を設定し、日本の排他的経済水域(EEZ)内にもミサイルを落下させた際も、中国の無人機は沖縄本島と宮古島の間を抜けて活動した。昨年11月には沖縄本島の東側で無人機の活動が確認された。そのたびに南西航空方面隊は警戒活動を実施してきた。
安全保障関連3文書で示された自衛隊配備強化や防衛費の増額について、南西航空方面隊の谷嶋正仁司令官は「(日本の)防衛力と中国の軍事力の格差が広がっており、この状態が継続することを危惧している。格差が是正される方向に行っていることを心強く思う」と述べた。日本の防衛力強化は中国側の動きと表裏一体。空自のスクランブル増加はその一端をのぞかせる。
(池田哲平)
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連載「自衛隊南西シフトを問う」
2010年の防衛大綱で方向性が示された自衛隊の「南西シフト(重視)」政策の下、防衛省は奄美、沖縄への部隊新編、移駐を加速度的に進めてきた。与那国、宮古島に続き、今年は石垣駐屯地が開設される。22年末には戦後日本の安全保障政策の大転換となる安保関連3文書が閣議決定され、南西諸島の一層の軍備強化が打ち出された。南西シフトの全容と狙い、住民生活への影響など防衛力強化の実像に迫る。