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「脅威ばかりがあおられている」…住民の理解が進まない「国民保護」、八重山の自治体に懸念も<自衛隊南西シフトを問う>19


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
住民避難訓練でわが子を抱きかかえる保護者=1月29日、那覇市のなは市民協働プラザ地下駐車場

「100段くらいの階段があるとすれば、まだ3段くらいしか上れていない」。「台湾有事」が現実となれば大きな影響を受ける八重山の自治体のある国民保護担当者は、こう漏らす。有事の脅威ばかりが唱えられ国民保護に関する住民理解が進まない現状を憂いつつ、淡々と準備を進めている。

八重山圏最大の約5万人の人口を有する石垣市は、有事の際、竹富町の約4300人と与那国町の約1700人が一時的に避難する中継拠点になる可能性がある。石垣市が想定するシナリオの一つはこうだ。「台湾有事」の兆候が表れると、政府は武力攻撃予測事態を認定し、県を通じて先島の自治体へ避難指示が出る。避難実施要領を決定した市は、各地の指定集合場所に市民を集め、既に協定を結んでいる四つのバス会社の観光バスに乗車させて空港や港へ移動する。与那国町と竹富町から船で避難してきた住民とともに、空路と航路で九州へ避難する。

市は有事の際、新石垣空港を24時間体制で稼働させることも検討する。その場合、1機当たりの駐機時間は40分程度しかないと想定される。市の担当者は「ピストン輸送では一カ所が詰まると全部が詰まる。有事の脅威ばかりがあおられ、国民保護への住民理解が進んでいないことが心配だ」と懸念を示す。来年度には市内各地で住民説明会の開催も検討する。

基本的に島単位で自治体が構成される先島とは違い、27市町村が立地する沖縄本島では輸送力など限りある資源を有効活用するためにも、広域調整が欠かせない。県内最大の30万人以上の人口を抱える那覇市の担当者は「人口規模から考えると、空路と海路の輸送力はいずれも不足しているのは子どもでも分かる。その上、一自治体が輸送力を独占できるわけではなく、避難の方法は本島自治体全体で考えないといけない」と指摘した。

航空機や船舶の手配は国と県の役割だ。県防災危機管理課は国民保護を所管する内閣官房と交通規制を所管する国土交通省も含めた協議を進める。3月17日には、先島の住民を九州へ避難させる方法を検証する、初の図上訓練を実施する予定だ。指定交通機関や自衛隊、海上保安庁、県警も参加する。同課担当者は「まずは先島の輸送力の検討を進める。図上訓練を踏まえて次年度以降に本島周辺離島から避難の在り方を検討し、先行自治体のモデルケースを本島地域にも示しながら広域調整を図りたい」と語った。

(梅田正覚)

連載「自衛隊南西シフトを問う」

2010年の防衛大綱で方向性が示された自衛隊の「南西シフト(重視)」政策の下、防衛省は奄美、沖縄への部隊新編、移駐を加速度的に進めてきた。与那国、宮古島に続き、今年は石垣駐屯地が開設される。22年末には戦後日本の安全保障政策の大転換となる安保関連3文書が閣議決定され、南西諸島の一層の軍備強化が打ち出された。南西シフトの全容と狙い、住民生活への影響など防衛力強化の実像に迫る。

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