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有事の民港使用、避難遅れ懸念 国際法違反の可能性も 「軍民分離」の原則<自衛隊南西シフトを問う>21


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安全保障関連3文書が閣議決定された昨年12月16日。岸田文雄首相は会見で、南西地域の防衛体制の強化に関する項目の中で「万一、有事が発生した場合の国民保護の観点からも重要だ」と強調した。沖縄を含む南西地域の防衛力強化が国民保護にも資するとの考えを打ち出した格好だ。

だが、識者からは国際法上の課題も指摘されている。

紛争当事国の行為を規定する国際人道法は、武力衝突時に攻撃対象となるものを軍事力や軍事施設に限定し、民間人や民間施設は攻撃してはならないという「軍民分離」の原則を定めている。

危機管理に詳しい中林啓修・国士舘大准教授は、この原則が攻撃側にだけではなく「守備する側も軍民分離を守る必要がある」と強調する。

日本が専守防衛に徹している場合も、武力衝突が始まった段階で自衛隊の船舶などを住民避難に使うのは「住民保護に専従することを示す『特殊標章』を持たない場合、国際法違反になる可能性が高い」と話す。

武力衝突時に自衛隊が民間港湾や空港を使えば、相手国に軍事利用していると受け取られ、施設が攻撃を受ける口実を与えるとも指摘。住民避難が完了していなかった場合、施設が攻撃を受けた結果として避難に混乱や遅れが生じる可能性をはらむ。

浜田靖一防衛相は本紙などの新春インタビューで「輸送アセット(装備)の利用がただちに国際人道法に反しているとは言えない」との認識を示しつつも「ご指摘の点についても、引き続きしっかり検討したい」と話し、政府内で検討途上であることを伺わせた。

実際に住民避難が行われれば、先島地域だけで11万人を超える住民が九州などに移ることが想定されている。

だが、現在の制度ではそれだけの人が避難先での生活をいかに支えるかも見通せない。

中林氏は県外避難について「自営業者など地域に根ざしたことをなりわいとする人を地域から引きはがすことになる。突然、避難しろと言われても戸惑う人が多い」とハードルの高さを語る。

自然災害では阪神・淡路大震災を契機に1998年に制定された被災者生活再建支援法で支援の枠組みが設けられた。一方、国民保護の面では「避難者支援の取り組みが弱い」と制度を拡充する必要性があるとした。

沖縄戦前年の1944年7月、県は10万人を九州、台湾に疎開させる「県外転出実施要綱」を策定した。だが、避難の本格化は10月10日の「十・十空襲」後で、最終的な県外疎開者は計8万人と目標を下回った。

中林氏は避難先の生活や、島に戻る道筋が見えないからだと指摘する。

77年前の沖縄戦が残す教訓が今も横たわる。

(知念征尚)

連載「自衛隊南西シフトを問う」

2010年の防衛大綱で方向性が示された自衛隊の「南西シフト(重視)」政策の下、防衛省は奄美、沖縄への部隊新編、移駐を加速度的に進めてきた。与那国、宮古島に続き、今年は石垣駐屯地が開設される。22年末には戦後日本の安全保障政策の大転換となる安保関連3文書が閣議決定され、南西諸島の一層の軍備強化が打ち出された。南西シフトの全容と狙い、住民生活への影響など防衛力強化の実像に迫る。

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