<書評>『ネフスキー生誕130年・来島100年記念文集 子ぬ方星(ニヌパブス)』 受け継がれた研究への情熱


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『ネフスキー生誕130年・来島100年記念文集 子ぬ方星(ニヌパブス)』記念文集編纂委員会 記念文集編纂委員会・3300円

 本書は宮古文化研究の先駆者であるニコライ・A・ネフスキー(1892~1937)の生誕130年と来島100年を記念して出版された。「子ぬ方星(ニヌパブス)」の書名のとおり、これからの「宮古学」の道しるべとなるような本が編まれている。ネフスキーはロシア・ヴォルガ河畔に生を受け、東アジアの言語・文化に関心を抱いて日本へ渡り、草創期の日本民俗学から大いに刺激を受けた。彼もまた「南島」を目指したのであるが、宮古諸島の言語・民俗に寄せた深い愛情は宮古出身の青年にも多大な影響を与えて、その後の郷土研究家たちを生んだ。本書は、ネフスキーが示した研究への情熱が今日まで宮古に脈々と受け継がれていることを示している。

 「第I部 ネフスキーを知る」「第II部 論文(21編)」「第III部 文芸(9編)」「資料編」で構成され、ネフスキーの入門書(理解を助けるイラストも多い)であると同時に専門的な知識も深められる内容となっている。論文編では、〈人物・社会〉〈言語〉〈民俗〉〈神話〉〈口承文芸〉〈歴史〉といった幅広い分野からの論考が集まり(ポーランド出身の若手研究者も含む)、ネフスキーの成し遂げた業績が今の研究の豊潤な源泉となっている姿を見ることができる。また、文芸編では言語やフォークロア(民間伝承)に関するエッセーやミャークフツ(宮古語)による創作的な会話も掲載され、宮古文化の継承が豊かに実践されている。

 すでに亡くなられているが、ネフスキーの伝記的研究の先駆者であられた加藤九祚氏の論考が収められているところも印象深い。かつて私は加藤氏の文章からネフスキー夫妻の悲劇的な死を知った。スターリンの粛清により銃殺されたネフスキーとその妻・磯子(いそこ)。長年そのことを無かったこととして知らされず、ひとり遺(のこ)された娘・エレーナ氏の悲しみと苦しみはいかばかりか。2001年、宮古に来島を果たされたエレーナ氏の言葉が深く心に刻まれる(本書115ページ)。「皆さんが遠いところから父を大事にしてくれて心から感謝したい」

(西岡敏・沖縄国際大教授)


 2022ネフスキー記念文集編纂委員会 伊志嶺敏子、久貝弥嗣、下地和宏、松谷初美、宮川耕次、本永清の6氏が呼びかけ人になり発足。宮川氏が事務局長を務めた。