<書評>『作品集 ファインダーの中の戦場』 戦争に翻弄される人々描く


社会
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『作品集 ファインダーの中の戦場』謝名元慶福著 ゆい出版・5500円

 『アンマー達のカチャーシー』『島口説』『海の一座』に続く作品集である。前3作は戯曲集だが、今作はラジオの脚本5本、戯曲4本、シナリオ1本が収録されている。

 表題の『ファインダーの中の戦場』はじめ、『骨』『命口説』『海の一座』『命どぅ宝・沖縄紀行 命どぅ宝・命の歌』はいずれもNHK・FMで放送されたものである。すべての作品に通底しているのは「沖縄戦」だが、『ファインダーの中の戦場』はベトナム戦争を取材した沖縄戦生き残りの報道カメラマンをめぐって、東京、ベトナム、沖縄のトライアングルの中で時空を超え「戦争」に翻弄(ほんろう)される人々の姿が描かれる。第3戯曲集の表題にもなっている舞台劇の『海の一座』に対し、今回収録分はラジオドラマとして書き直されたものである。比べて読むのもおもしろい。

 脚本や戯曲を読む楽しみは、劇化された時どう命が吹き込まれるのか、想像力をふくらませてくれることである。『ファインダーの中の戦場』には井川比佐志、三田和代ら実力派俳優と、北島角子、平良トミ、八木政男ら沖縄を代表する役者が出演、作品に深みを加えている。『命どぅ宝・沖縄紀行 命どぅ宝・命の歌』は、読んでいるうちに語りの津嘉山正種の美声が文章をなぞって聞こえてくるような錯覚に陥って快い。

 著者には「カメジロー沖縄の青春」などの映画作品もあるが、シナリオ『森の風になった少女』は、企画・上地完道、監督・野村岳也によって映画化が進められていたようだが、2人が亡くなったため実現しなかったのが惜しまれる。

 少年のころ、親子ラジオから流れるラジオドラマに胸を弾ませ、ラジオ・テレビドラマを書くことが目標になった著者は、初志を貫き、卒寿を過ぎてなお執筆と映像ドキュメンタリー制作に取り組むなど旺盛な創作力をみせている。舞台化、テレビ化されてない未公表の作品もまだ多数あって、自作の原稿探しを続けているという。第5作品集にも期待したい。

(大濱聡・元放送ディレクター&プロデューサー)


 じゃなもと・けいふく 1942年沖縄県出身。劇作家、映像作家。北島角子主演の一人芝居「島口説」を手がけたほか、「阿麻和利」などのオペラ台本、ドキュメンタリー映画「いのちの森高江」の監督を務めた。

謝名元慶福 著
四六判 520頁

¥5,500(税込)