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白黒で解決できないジレンマ 「連続ドラマW フェンス」従来の沖縄イメージと一線 プロデューサーが込めた思い㊤


この記事を書いた人 Avatar photo 瀬底 正志郎

 沖縄を舞台に女性バディ(2人組)が性的暴行事件の真相を追う、エンターテインメント・クライムサスペンス「連続ドラマW フェンス」(野木亜紀子脚本)の放送が、19日から始まる。同作は、従来の沖縄を映像化した作品にみられる「青い海」や「青い空」といった「沖縄イメージ」と一線を画すように、現実的な沖縄を描き出す。同作の高江洲義貴、北野拓両プロデューサーに、制作の背景や作品に込めた思いを聞いた。(聞き手・藤村謙吾)

「連続ドラマW フェンス」より大嶺桜(左・宮本エリアナ)と小松綺絵(松岡茉優)

■沖縄の複雑な現状を、ドラマというエンタメに昇華

 ―制作のきっかけは。

 北野拓氏 新人の頃、沖縄で記者として働き、沖縄の人に育ててもらったという思いがあり、「本土復帰50年の節目に沖縄に寄り添った作品を絶対に作らないといけない」と考えていた。約3年前から企画を練り始め、最初に作った企画書から一貫してタイトルは「フェンス」にしていた。

(左から)高江洲義貴氏、北野拓氏

 沖縄で記者をしていた2011年、沖縄市で米軍関係者による公務中の交通死亡事故があり、青年が亡くなった。当初、日本側に裁判権はなく、米軍側の処分は免許停止。遺族を取材させて頂いた際に、涙ながらに不条理な現実を訴えていたのが忘れられない。その他にも、ひき逃げ事件や飲酒運転、性犯罪も含め、米軍関係者による事件事故を沖縄での記者時代に数多く取材した。それらのニュースをマスコミが大きく取り上げると、地位協定の運用が改善されることもあったが、一過性のもので抜本的には改善されない。こうした沖縄の現実を実際に見て感じていたので、沖縄の歴史も踏まえ、沖縄の複雑な現状を、ドラマというエンタメの形に昇華して発信したいと考えた。

沖縄県警の警察官・伊佐兼史(右・青木崇高)

 ―北野さんは、脚本の野木さんとはNHKのドラマ「フェイクニュース」以来、2度目のタッグ。「フェンス」は、従来の映像作品の多くが沖縄を描く際に用いてきた「青い海」「青い空」などの象徴的な沖縄イメージと距離を置くかのように、現実的な「沖縄」が描かれている。制作にあたり、何を心掛けたか。

 北野氏 「フェイクニュース」のときから、ジャーナリズム性とエンターテインメント性をどう融合するかが課題だった。野木さんはもともとドキュメンタリーを作っていた方でもあり、作品の根底には「社会に対してのメッセージ」がある作家だと思う。

 野木さんと作品を制作するときは、徹底的に取材をする。本作の主人公・大嶺桜と同じブラックミックスの方や沖縄県警OB、基地従業員、県警のカウンターパートになる米軍の捜査機関など。約1年掛けて、登場人物の元になる人に全て会った。野木さんの創作の部分もあるが、被取材者から聞いた言葉を、丁寧に拾い脚本にしていった。

高江洲義貴氏

 ―高江洲さんは沖縄出身。作品にどんな印象を抱いたか

 高江洲義貴氏 脚本を読んで最初に浮かんだ思いは「感謝」だった。プロットの段階だったが、沖縄に今ある問題をエンタメを通してみんなに知ってもらおうという、北野さんと野木さんの覚悟や、愛のようなものをうちなーんちゅとして強く感じた。自分もいつかこのような作品を制作したいと思っていた。映像にして見直したとき、感謝の思いはより高まっていった。

北野拓氏

■さまざまな「フェンス」を乗り越える

 ―タイトルの「フェンス」(壁)にはどういう意味が込められているのか。

 北野氏 まず本土と沖縄の壁をどう乗り越えるかを意識した。米軍犯罪捜査が軸となるので日米の壁、さらには男女間や女性同士の壁、そして人種の壁など。これら全部を包括し、沖縄が舞台ならば描けると考えて「フェンス」にした。エンタメ性を持たせながらも、さまざまな壁を乗り越えて、どのように人と人が分かり合うかを描きたかった。

 ―最近の本土と沖縄に横たわる「フェンス」をどう捉えているか

 高江洲氏 SNSをはじめ、言葉が一人歩きしている。「言葉狩り」や「言葉ゲーム」のような感じで二項対立にして、言葉だけの表面的なやりとりで、勝ち負けを決めていくような風潮がある。しかし、大事にすべきは、言葉の裏にあるそれぞれの人の思いだ。

 沖縄はたくさんの問題というか未解決なものがある。それらに対して反対か賛成かでラベリングされがちだけど、そうじゃない。それらの物事に対する考え方は白黒で割り切れず、さまざまなグラデーションを伴って人々の中にあると、取材や作品作りを通じて感じた。互いの考えの濃淡を知ろうとしたり、思いをはせたりする優しさのようなところからしか、分断や傷つけ合いはなくならず、問題は解決できないと思う。野木さんの脚本は、白黒で解決できないジレンマも、すくい上げてくれている。

>>「連続ドラマW フェンス」プロデューサーに聞く㊦に続く

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■連続ドラマW フェンス<ストーリー>
 雑誌ライターのキーこと小松綺絵(松岡茉優)は、米兵による性的暴行事件の被害を訴えるブラックミックスの女性・大嶺桜(宮本エリアナ)を取材するために沖縄へ向かう。桜の供述には不審な点があり、事件の背景を探る必要があったのだ。米軍基地の門前町・通称コザを訪ね、桜の経営するカフェバーMOAIへ行き、観光客を装って接近。桜の祖母・大嶺ヨシ(吉田妙子)が沖縄戦体験者で平和運動に参加していることや、父親が米軍人であることを聞く。

 一方でキーは、都内のキャバクラで働いていた頃の客だった沖縄県警の警察官・伊佐兼史(青木崇高)に会い、米軍犯罪捜査の厳しい現実を知る。やがて、沖縄の複雑な事情が絡み合った“ある真相”にたどり着く。キーが見つけた事件の真相とは?

■「連続ドラマW フェンス」は19日後10時からWOWOWプライムで初回放送、WOWOWオンデマンドで配信する。全5話。


■プロフィール
 たかえす・よしき 1987年生まれ。宜野湾市出身。日大藝術学部映画学科監督コース卒業後、ドラマ制作会社に就職。フリーランスのアシスタント・プロデューサーとして活動後、2016年にWOWOW入社。現在はWOWOWドラマ制作部プロデューサー。「殺意の道程」や「ダブル」などを手がける。

 きたの・ひらく 1986年生まれ。大阪市出身。2009年にNHKに入局し、2011年までNHK沖縄放送局で報道記者として勤務。現在は、NHKエンタープライズドラマ部シニア・プロデューサー。ギャラクシー賞奨励賞を受賞した「宮崎のふたり」や「フェイクニュース」などを手がける。