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「沖縄の役者」にこだわり 「連続ドラマW フェンス」言葉で表現することの勇気 プロデューサーが込めた思い㊦


この記事を書いた人 Avatar photo 瀬底 正志郎

 沖縄を舞台に女性バディ(2人組)が性的暴行事件の真相を追う、エンターテインメント・クライムサスペンス「連続ドラマW フェンス」(野木亜紀子脚本)の放送が、19日から始まる。同作の高江洲義貴、北野拓両プロデューサーのインタビュー後半では、舞台となる沖縄への思いやこだわりなどについて語ってもらった。(聞き手・藤村謙吾)

>>「連続ドラマW フェンス」プロデューサーに聞く㊤はこちら

「連続ドラマW フェンス」より大嶺桜(左・宮本エリアナ)と小松綺絵(松岡茉優)

■異和感のない「沖縄言葉」

 ―主人公の一人・大嶺桜(宮本エリアナ)はブラックミックスの女性。日本の作品では珍しいキャスティングだ。

 北野氏 記者時代にアメラジアンスクールを取材していたので、ミックスの方の抱える葛藤を全5話のうちのどこかできちんと描きたいと考えていたら、野木さんからメインキャラクターで描いた方が良いのではとご提案があったので、今の形になった。

小松綺絵役の松岡茉優

 ―沖縄を中心に活躍する役者も多く出演している。

 北野氏 当事者性が問われる時代、沖縄の事を描くなら沖縄出身の役者を起用するのが世界的な潮流になっている。潮流を意識した部分もあるが、リアリティーや空気感を出す上で「沖縄の人の役を沖縄の人がやる」ことにこだわった。約90人の登場人物中52人の役を、沖縄の役者が演じている。

 一方で、沖縄出身の方に沖縄の役をお願いすることが絶対ではないとも考えた。例えば、ある役の人物が「基地反対」と言えば、役と自分の考えが違っていても、役者自身の色も「基地反対」に染められてしまう。(キャスティングそのものが)暴力性をはらむ。そういう意味では、主演の松岡茉優さんと宮本さんや、沖縄フリークの青木崇高さんのキャスティングは良かったと思う。当事者じゃないからこそ描けたこともあっただろう。

大嶺桜役の宮本エリアナ

 本作は高江洲さんが沖縄の目線が入り、僕と野木さんが沖縄の人だと気づかない部分を担う。内部の問題は、中の人は言いたくても言えないことがあるので、すごくバランスの良いキャスティングだったと思う。

 高江洲氏 同感だ。当事者が演じる潮流は分かった上で、本当に(役の考えを)背負わせていいのかという問題は出てくる。青木さんもすばらしかった。

 ―新垣結衣も沖縄の精神科医役で出演している

 北野氏 新垣さんが出てくれたのは大きかった。野木さんとの関係性で出演してくれた。作中の新垣さんの言葉に救われる人も多いと思う。

精神科医・城間薫役の新垣結衣

 ―宮本や青木の「沖縄言葉」に異和感がない。方言指導はどうしたのか

 北野氏 地方を舞台にしたドラマを手掛けるのは3作品目なので、主人公と同世代の人に指導してもらう方がナチュラルな言葉になると実感していた。だから、取材で出会った、沖縄出身の若手俳優の井上あすかさん(演撃戦隊ジャスプレッソ)と福地清さんにお願いした。井上さんは、主演の一人である宮本エリアナさんと友人のような関係になってくださり、指導とのコミュニケーションがとてもうまくいった。井上さんや福地さんのおかげで違和感のない沖縄の言葉になったと感じている。

(左から)高江洲義貴氏、北野拓氏

■どうしようもない気持ちを、せりふとして言語化

 ―高江洲さんが、うちなーんちゅとして印象に残ったシーンはどこか。

 高江洲氏 第4話で桜が、もう一人の主人公・綺絵に沖縄の置かれた立場を訴える場面が印象的だった。プロデューサーは試写を経て、直しを提案しブラッシュアップする立場だが、直しのアイデアが浮かばないくらい心に響いた。自分たちの中にあって、もやもやして出せなかった気持ちが言語化されてく。そこが野木さんの素晴らしさだ。どうしようもない気持ちが、せりふとして言語化されたとき、心が動き、勇気をもらえた。また自分の言葉として、その気持ちを発信できる意義もある。 桜のような気持ちはうちなーんちゅは多かれ少なかれ抱えていると思う。それを言うこともできないし、どう表現したらいいか分からない。僕もその一人だった。台本を読み、映像を見たときに「こうやって表明していけるんだ」という言語を手に入れることができた。言葉にして表明することの勇気や智恵、それらの力をもらえる作品だ。 

 ―最後にあらためて作品の魅力を

 北野氏 制作を通じて、沖縄の役者は、芝居にリアリティーがあり、ポテンシャルが高いと感じた。また、本作は音楽も沖縄にこだわっている。中心にはAwichさんの主題歌「TSUBASA feat.Yomi Jah」があり、普通の劇盤作家では作れないような、沖縄に生きているからこそ紡ぎ出されるサウンドが共にある。沖縄のカルチャーは世界に通用する。作品をきっかけに、沖縄のカルチャーを発信する若い人たちに、もっと光があたってほしい。

 高江洲氏 本作には沖縄の人にとって「言われるときつい」と感じる言葉も瞬間瞬間にあるが、その言葉に対するアンサーもある。見ていてつらい思いになるかもしれないが、希望を感じられる作品になっている。沖縄の人だからこそ、沖縄の事を考えないという側面もある。だから、作品を見て本土の人にも沖縄の事を考えてほしいし、沖縄の人にももう一度自分の住む島を見直し、思いをはせるきっかけになってくれればと思う。

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■連続ドラマW フェンス<ストーリー>
 雑誌ライターのキーこと小松綺絵(松岡茉優)は、米兵による性的暴行事件の被害を訴えるブラックミックスの女性・大嶺桜(宮本エリアナ)を取材するために沖縄へ向かう。桜の供述には不審な点があり、事件の背景を探る必要があったのだ。米軍基地の門前町・通称コザを訪ね、桜の経営するカフェバーMOAIへ行き、観光客を装って接近。桜の祖母・大嶺ヨシ(吉田妙子)が沖縄戦体験者で平和運動に参加していることや、父親が米軍人であることを聞く。

 一方でキーは、都内のキャバクラで働いていた頃の客だった沖縄県警の警察官・伊佐兼史(青木崇高)に会い、米軍犯罪捜査の厳しい現実を知る。やがて、沖縄の複雑な事情が絡み合った“ある真相”にたどり着く。キーが見つけた事件の真相とは?

■「連続ドラマW フェンス」は19日後10時からWOWOWプライムで初回放送、WOWOWオンデマンドで配信する。全5話。


■プロフィール
 たかえす・よしき 1987年生まれ。宜野湾市出身。日大藝術学部映画学科監督コース卒業後、ドラマ制作会社に就職。フリーランスのアシスタント・プロデューサーとして活動後、2016年にWOWOW入社。現在はWOWOWドラマ制作部プロデューサー。「殺意の道程」や「ダブル」などを手がける。

 きたの・ひらく 1986年生まれ。大阪市出身。2009年にNHKに入局し、2011年までNHK沖縄放送局で報道記者として勤務。現在は、NHKエンタープライズドラマ部シニア・プロデューサー。ギャラクシー賞奨励賞を受賞した「宮崎のふたり」や「フェイクニュース」などを手がける。