<書評>『琉球建国史の謎を追って 交易社会と倭寇』 世界史とつながる知的快感


社会
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『琉球建国史の謎を追って 交易社会と倭寇』吉成直樹著 七月社・2200円

 先日首里城に行きました。「見せる復興」が着々と進んでおり、往時の琉球でも築城には多くの人々が関わったであろうと見学しました。

 1427年、尚巴志は、首里の整備を命じ、“王国として輝かしい歴史”をスタートさせました。しかし、その前はどうだったのだろうと考えると、ぼんやりとしたイメージしか浮かびません。何か霧がかかった映像を見ているような感覚です。本書は、琉球建国前夜を、歴史、考古学、言語学、形質人類学、生物学、民俗学、地質学、海洋気候、そして『おもろさうし』を中心とした文学まで、ありとあらゆる研究から、モヤモヤした霧を払ってくれます。

 読み進めるにつれて、不鮮明な動画の解像度が上がっていくような、わくわく感がありました。また、“王国としての輝かしい歴史”のはじまりは、アジア各国、海域の大混乱を胎動として、生まれたものであったと感じました。尚巴志ら佐敷勢力のルーツ、居城とした佐敷グスクの特徴から、彼らの出自をも探ります。さらに、アジア情勢の変化と、人の流れ、当時たくましく海に生きた人たちの存在がありました。彼らが南島にやって来た試みは、現代沖縄に通じるものも感じました。私たちが考えているより、海をダイナミックに動いている人々の様子を描いて見せてくれます。

 著者は、琉球建国以前のプロセスを、長年追い続けています。今回はそのエッセンスを、濃縮し詰め込んだ一冊といってもいいでしょう。研究者としての鋭い視線も随所で感じます。琉球を語るウチナーンチュとして、ドキッとさせられる箇所もありますが、実はこれが、先の映像をモヤモヤさせている原因だったりします。私自身のクセみたいなものが、実は霧の発生源だったと、あらためて感じました。琉球建国の話から、世界史・アジア史・日本史が琉球でつながる知的快感があります。本文中に古い地名や学術用語が頻出しますので中級以上かもしれません。首里城の完成がより楽しみになりました。

 (賀数仁然・琉球歴史研究家)


 よしなり・なおき 1955年生まれ、秋田県出身、元法政大教授。著書に「琉球の成立―移住と交易の歴史」「琉球王国は誰がつくったのか―倭寇と交易の時代」など。