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観光地化する台中対立の最前線・金門島の「日常」 台北那覇分処長「緊張は常に存在する」<自衛隊南西シフトを問う>23


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
金門島から臨む中国アモイ=2022年12月30日、台湾の金門県

海を隔てた島の対岸には、もやがかった中国・厦門(アモイ)の超高層ビル群が一面に広がる。手前の砂浜では、敵の上陸を阻止する目的で設置されたさびた鉄くいが、穏やかな波に打たれていた。

中国から最短2キロの場所に浮かび、台湾が統治する金門島。蒋介石率いる国民党政府が中国共産党との内戦に敗れ1949年に台湾に逃れて以降、台中対立の「最前線」に位置づけられる。

昨年8月、米国のペロシ前下院議長が現職下院議長として25年ぶりに訪台したことで中国は猛反発した。台湾周辺で軍事演習を激化させ、大陸から発射された弾道ミサイルの一部は与那国島北西の日本の排他的経済水域(EEZ)内に着弾して衝撃が走った。

金門島にも所属不明のドローン7機が飛来した。台中の緊張が増す中の昨年12月、記者は金門県の招待で島を訪問した。

「中台関係の緊張は常にあるが、台湾は安全で人々は日常を普通に営んでいる」と話す台北駐日経済文化代表処那覇分処の王瑞豊処長=6日、那覇市

今、島では駐留兵力の削減と大陸からを含む観光客を当て込んだ開発が急速に進む。砲陣地や軍の輸送船舶が入れる地下水路などの軍事施設も観光地として公開され、名所となっていた。

かつて戒厳令が敷かれ自由な行き来が制限された島は今、観光業で経済発展を目指す。観光ガイドの女性は大陸からの観光客について「どんどん来てほしい」と笑顔で語った。

「有事の可能性は今に始まった話ではなく、緊張は常に存在している。台湾は中国の威嚇には慣れており、住民は普通の日常を営んでいる。でも、だからといって備えを怠っているわけではない」。台湾外務省の総領事に当たる台北駐日経済文化代表処那覇分処の王瑞豊(おうずいほう)処長はこう強調する。

台湾各地には防空壕が整備され、18歳以上の男性には兵役が課される。軍事圧力を強める中国に対抗するため、来年1月から現行4カ月の兵役を1年に延長する。さらに台湾政府は2023年の国防予算を過去最高額に増額させる。

有事に備えつつも、台湾の人々は現状の台中関係の維持を望む声が多数を占める。王処長によると、世論調査では6割が現状維持を望み、2割が独立、台中統一は1割にも満たない。王処長は「誰も戦争は望んでいないし、米国も(中国が武力侵攻をする際の条件とされる)台湾独立を明言しない。台湾が独立することはない」と述べた。

その上で王処長は仮に台湾有事が起きた場合でも「沖縄は巻き込まれない」との見方を示す。有事の際、日米の軍事介入は中国にとって不利で、ロシアによるウクライナ侵攻のように、中国は基本的に台湾だけを相手にするとみるからだ。「台湾の状況は日本の戦国時代と似ている。小国は常に備えないと大国にのまれる。他国を当てにしないで自分の国は自分で守らないといけない」と説明した。

(梅田正覚、知念征尚)

連載「自衛隊南西シフトを問う」

2010年の防衛大綱で方向性が示された自衛隊の「南西シフト(重視)」政策の下、防衛省は奄美、沖縄への部隊新編、移駐を加速度的に進めてきた。与那国、宮古島に続き、今年は石垣駐屯地が開設される。22年末には戦後日本の安全保障政策の大転換となる安保関連3文書が閣議決定され、南西諸島の一層の軍備強化が打ち出された。南西シフトの全容と狙い、住民生活への影響など防衛力強化の実像に迫る。

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