脚本家・野木亜紀子さんインタビュー「沖縄」描いた理由 複雑さの中から伝えられること「連続ドラマW フェンス」 (前編)


社会
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「連続ドラマフェンス」より。事件を追う小松綺絵(左、松岡茉優)と大嶺桜(宮本エリアナ)
野木亜紀子さん

 ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」「MIU404」、映画「罪の声」などの脚本家として知られる野木亜紀子さんが19日午後10時からWOWOWで放送・配信が始まる「連続ドラマW フェンス」の脚本を手掛けた。同作は沖縄を舞台に女性バディが性的暴行事件の真相を追う、エンターテインメント・クライムサスペンス。多くの社会派ドラマを手掛けてきた野木さんが描く「沖縄の今」とは。沖縄を題材とする難しさとは何か。(聞き手 玉城江梨子) 

 

―「沖縄」を描いたのはなぜでしょうか。

  きっかけは北野拓プロデューサーから「沖縄を舞台にしたクライムサスペンスを作りたい」と提案を受けたことです。最近は、ドラマは原作があるものではなく、企画から自分でオリジナルで書いていますが、今作は自分から書くことのないテーマ。北野さんとは以前、NHKドラマ「フェイクニュース」で一緒にやっていて、その時もかなり取材や下調べをしてくれた。社会問題をきちんと取り上げられるプロデューサーなので、「沖縄」を題材にしても可能だろうと思いました。それに加えてWOWOWが手を挙げてくれ、普天間出身の高江洲義貴プロデューサーもいた。北野さんが記者として沖縄に数年住んだ経験があり、沖縄に詳しくても、私がどれだけ勉強しても本土の人間です。そこに普天間出身の高江洲さんが入る。当事者の視点が入る。これだけの座組みがそろったので取り組めた題材です。

「連続ドラマW フェンス」より。基地従業員の仲本颯太(左、JO1・與那城奨)と大嶺桜(宮本エリアナ)

 ―「沖縄」を描く上で意識したことは何でしょうか。

  正解のない部分も含めてドラマとして描かないといけない。誰が見ても、見る人ごとに「私はそうじゃない」と思う部分があるでしょう。ハレーションも起こるだろうということも含めて、そこは仕方がない。できるだけいろんな立場の人をドラマで描くことを意識して作りました。

 ドラマをはじめとする物語のいいところは、自分が共感することもあるし、自分と全く違う人の気持ちを理解までは行かなくても知ることができる。沖縄って遠いんです、どうしても。そこにこんな人たちがいて、みんなそれぞれの思いや苦しさを抱えているというのがニュースでは伝わらないけど、ドラマの形なら伝えられる部分がある。

 ―たくさんの方に取材をしたと伺いました。

  総勢100人以上に取材をしました。話を聞くと、ここが足りないねとどんどん増えていった。北野さんの報道記者時代の人脈と高江洲さんの地元人脈で、できる限りの人に会わせてもらいました。聞けば聞くほど、みんな違うことを言う。当たり前と思いつつ、想定以上でした。

「連続ドラマW フェンス」より。 小松綺絵(左、松岡茉優)と雑誌編集長の東諭吉(光石研)

 ―沖縄の多くの女性たちに励まされたとおっしゃっていました。

  性暴力被害者支援関連で活動している人にたくさん会って話を聞きました。みんな問題意識をもって取り組んでいるのが印象深かったです。

 性被害は被害を受けた後も苦しみが続きます。PTSDの中でも最も重く、(性被害は)一生に関わる問題ですが、その部分ってエンタメドラマだとスルーされる。性暴力がありました。犯人はつかまりました、あるいは復讐されましたとしか描かれてこなかった。現実はそれで終わらない。そもそも言い出せてない人がたくさんいる。今回のドラマで性暴力を扱うからには、被害に遭った人のその後をどう描くかという問題意識がありましたが、どう描くかは、取材前には具体的に決まっていなかった。

「連続ドラマW フェンス」より。性被害に遭った女性たちに寄り添う精神科医・城間薫(新垣結衣)

 (沖縄の取材で)精神科の先生から、性被害は治療にたどり着く人が少ないことや、即効性のあるものではないが、治療によって少しずつでも生活しやすくなることを聞きました。40年前に被害に遭ったことを電話相談で初めてカミングアウトする人がいたことも聞きました。#Metoo運動で、声が上がり始めていますが、ずっと記憶を封印している人がたくさんいる。それが実は延々と問題として残っているということがたくさんある。そういうことを描かなければならないと思い、(新垣結衣さん演じる)精神科医の役を設定しました。最初の想定にはなかった登場人物です。 

―新垣結衣さんを始め、多くの沖縄出身の役者が出演しています。

  沖縄出身の役者50人以上に出てもらいました。おかげで臨場感のあるドラマになりましたが、それぞれいろんな思いを持っていると思う。基地問題を扱う作品に出ると、あなたはどっちなんだ?と沖縄の人だけが立場を明確にすることを求められるのだろうと思う。そんな単純な問題ではないことを本土の人は知らない。個人がそう思っていても家族が基地で働いている場合もある。そこの複雑さがわからないのに、賛成、反対で二分したり、より断絶させようとしたり、「単純化」という雑な議論ではこういうことがあるのがなかなか伝わらない。そこを今回は描ければと思いました。複雑さの面もドラマを見て本土の人が少しでも知ってくれればと思います。

>>野木亜紀子さんインタビュー後編はこちら

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「連続ドラマW フェンス」は19日(日)午後10時からWOWOWプライム、WOWOW4Kで初回放送・WOWOWオンデマンドで配信スタート。毎週日曜放送の全5話。第1話は無料放送。

<プロフィル>
のぎ・あきこ 脚本家。代表作に映画「罪の声」「アイアムアヒーロー」「犬王、ドラマのオリジナル作品に「アンナチュラル」「MIU404」「コタキ兄弟と四苦八苦」など。「獣になれない私たち」で第37回向田邦子賞。