玉城江梨子 
ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」「MIU404」、映画「罪の声」などの脚本家として知られる野木亜紀子さんが19日午後10時からWOWOWで放送・配信が始まる「連続ドラマW フェンス」の脚本を手掛けた。同作は沖縄を舞台に女性バディが性的暴行事件の真相を追う、エンターテインメント・クライムサスペンス。多くの社会派ドラマを手掛けてきた野木さんが描く「沖縄の今」とは。沖縄を題材とする難しさとは何か。インタビューの後編を紹介する。（聞き手 玉城江梨子）
―渋滞、トートーメー、水問題など生活の部分も細かく描写している。
取材で「えー？」と思った事を入れていきました。沖縄が舞台のドラマなので、沖縄の日常、空気感をどれだけ出せるかだと思う。インタビューや文献を読むだけでなく、一人で街の中をふらふら歩いてみたり、文化的な情報を肌で感じることを意識しました。その中で取り入れられることは取り入れた。ヒヌカンが根付いていることには驚きました。家の守り神ってすごい。ドラマではよくも悪くもという視点で書きましたが、いい文化だと思います。トートーメーは男性が継承すると言っても男性はどこまでやっているのか。女性は大変そうだと感じました。
―性暴力が一番大きなテーマとしてあり、人種、ジェンダー、沖縄戦、日米地位協定、沖縄と日本の問題と沖縄を取り巻くあらゆる問題を盛り込んでいます。一つのテーマだけでも重いが、作品にこれだけ盛り込んだのはなぜですか。
沖縄を描くのはそういうこと。一つのことでは沖縄を描けないからこそ、沖縄の複雑さがあります。いろんなことが絡んでいる。本当はもっとある。その一角でしかない。複雑さを表すためにはそのまま書くしかないので、なるべく入れていきました。絡み合った全てで初めて沖縄の輪郭が見えてくる。一つのことだけでは語れない複雑さをドラマなら表せるというのもあります。
エンターテインメントとして成立させるためのバランスは難しい。エンタメでもふざけちゃいけないところがある。一歩間違えると単なる「消費」になってしまう。線引きについては常に悩みながら作りました。高江洲さんに「これ、沖縄の人としてどう思う？」と確認しながら進めました。
―沖縄の人がどう受け止めるのか怖さはありますか。
あります。途中すごく悩んだが、一人で作っているわけではないし、みんなで背負えばいいという思いに至りました。とにかくこの状況を本土に知ってもらうという目的があったので、少しでも知ることにより、みんなで少しずつ背負えればいい。そんなの沖縄の人からしたら、「何かしてくれるわけでもないのに」と言われそうで、難しいですが。私は脚本家なので脚本という自分にしかできない形で、沖縄のこの状況を伝えられればいい。
―作品を作る前と後で、野木さんの沖縄観は変わりましたか。
申し訳ないと思いました。沖縄に住んでいる人は生まれたときから重い荷物を当たり前に背負っている。同じ日本なのに本土はそんなことつゆ知らずに生きている。負担が全部いっているが、ほとんどの人が「沖縄には基地があるからね」ぐらいの感覚で生きている。沖縄の人同士は、家族や友達の間ですら引き裂かれている。それって本当に苦しい。沖縄に行って目の当たりにするまで、いまいちピンときていなかった。目の当たりにしたときに、この苦しさを本土の人々は最初からないものとして生きている。日々の悩みは一つ増えるだけでも重い。すごく不公平だと思いました。沖縄は遠いし、政府も沖縄のことを無視している。沖縄だから無視できてしまう。そういうことを本土の人は知らない。そこが非常に罪深いと思います。
―沖縄の人にメッセージはありますか。
若い人と年配の人で基地問題やジェンダーに対してだいぶ意識が変わっていると感じました。もう少し互いの考えを伝え合い、違う価値観を提示することによって、希望を見いだせる人もいるのではないでしょうか。地位協定の中身を知らない沖縄の人も多い。WOWOWの無料放送もあるのでぜひ見てもらいたい。
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「連続ドラマW フェンス」は19日（日）午後10時からWOWOWプライム、WOWOW4Kで初回放送・WOWOWオンデマンドで配信スタート。毎週日曜放送の全5話。第1話は無料放送。
＜プロフィル＞
のぎ・あきこ 脚本家。代表作に映画「罪の声」「アイアムアヒーロー」「犬王、ドラマのオリジナル作品に「アンナチュラル」「MIU404」「コタキ兄弟と四苦八苦」など。「獣になれない私たち」で第37回向田邦子賞。
