中国を念頭に置いた日本の防衛力強化が進む中、中国による「台湾有事」の可能性などについて、東アジアの国際政治が専門の松田康博東京大教授に聞いた。
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―中国の習近平主席は今年、史上初の3選を果たし事実上の終身制を敷いた。有事の可能性は。
「統一を目的とした武力行使の蓋然性(がいぜんせい)は短期においては高くはない。台湾海峡を越えて、数十万の陸上兵力を上陸させ、途切れることなく補給をする能力は今のところはない」
「軍事面以外でもコストは高い。有事となれば中国にとって経済発展のけん引力となっている沿海地域が主戦場になる。米軍の介入リスクもあり、現在は抑止が成立している状況だ。ただ、中国は抑止を破るために全力で軍拡を進めており、有事が起きる可能性は今後高まると言える」
―中国が中台統一にこだわる理由は。
「中台統一は国是でこの73年間、ずっと言い続けてきている。それは昔の日本で言えば『沖縄返還』に近い。日本ならば佐藤栄作首相(当時)が本気で取り組み、平和的に返還を実現した。同様に長期政権で本気で国是を達成しようとする指導者が出てきたということだ。当時の沖縄県民は本土復帰を願ったが、今の台湾は統一を望んでいない。本当に実行するかは不透明だが、好機があれば武力で屈服させることも視野に入れている」
―昨年末の安保関連3文書の改定を受けて、沖縄では有事に巻き込まれると懸念されている。
「中国の軍拡を尻目に、台湾や日本、米国が現状維持なら有事は起こりやすくなる。有事となれば中国が台湾周辺に敷設する浮遊機雷が黒潮などに乗って日本周辺海域に北上し、海上交通が困難になるなど何もしなくても日本は必ず巻き込まれる。中でも最も影響を受けるのは地理的に近い沖縄だ。抑止力を維持して有事を起こさせないことが重要だ」
「抑止力を維持し、中国にとってリスクが高い状況を5年、10年と続けていけば習氏はいずれ80歳を超え、その時に戦争指導をするのは難しくなる。そうすると中台統一は単なるスローガンとなり、国力の低下と相まって、事実上断念せざるを得なくなる。中国の息切れを狙うべきだ。この目標は台湾、日本、米国等の努力で達成可能だ」
―県は地域の緊張緩和に寄与しようと来年度から「地域外交室」を設置する。
「取り組みの効果には懐疑的だ。沖縄県の見識が不足していると中国側に利用されて、抑止力構築の足を引っ張る可能性がある。これは中国が一番やってほしいことで、県は注意をしてほしい」
(聞き手 梅田正覚)
連載「自衛隊南西シフトを問う」
2010年の防衛大綱で方向性が示された自衛隊の「南西シフト(重視)」政策の下、防衛省は奄美、沖縄への部隊新編、移駐を加速度的に進めてきた。与那国、宮古島に続き、今年は石垣駐屯地が開設される。22年末には戦後日本の安全保障政策の大転換となる安保関連3文書が閣議決定され、南西諸島の一層の軍備強化が打ち出された。南西シフトの全容と狙い、住民生活への影響など防衛力強化の実像に迫る。