【記者解説】沖縄戦の実相「多角的・多面的」に伝えられる?新たな教科書の問題点


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 文科省の検定に合格した教科書は沖縄戦について、小学5・6年生向けの「社会」、小学3・6年生向けの「道徳」、小学5・6年生向けの「国語」、高校生向けの「英語」と幅広く取り上げた。ただ、それぞれの記述を精査すると疑問点がいくつか浮かび上がる。

 小学6年生向けの「社会」は3社3冊が、沖縄戦で起きた「集団自決」(強制集団死)の記述で日本軍の関与に触れなかった。うち1社は、沖縄戦当時に県知事だった島田叡氏を「コラム」の形で新たに取り上げており、担当編集者は「沖縄のことをできるだけ伝えたいという思いがあった」と狙いを明かした。

 「戦時下のリーダー」として島田氏を評価する声は県内外にある。ただ、沖縄戦研究者などから、島田氏の軍への協力姿勢が住民の犠牲を深刻化させたとの指摘があるのもまた事実だ。

 この教科書では島田氏の「負の部分」は触れず、島田氏の発言を、島田氏を題材にした映画の公式サイトからの引用を基に伝える危うさも見受けられた。

 学習指導要領は子どもらが、事象を「多面的・多角的」に捉えられるような「適切な配慮」を求めている。沖縄戦の実相を伝えるためには、日本軍と住民との関わりに触れることは避けられない。その記述が欠けたままの教材では、沖縄戦の悲劇を「多面的・多角的」に伝えられるとは到底言えないはずだ。
 (安里洋輔)