「軍国主義の実態学んで」沖縄戦に動員された元学徒らが声明発表 教科書の集団自決軍命表記なし【声明全文あり】


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皇民化教育や軍国主義教育の過ちについて語る(左から)宮城政三郎さん、太田幸子さん、山田芳男さん、瀬名波栄喜さん=30日、那覇市首里金城町の養秀同窓会館

 文部科学省の教科書検定で、米軍の攻撃で追い詰められた住民の「集団自決」(強制集団死)について、日本軍の住民への命令などの関与を示す説明記述がなかったことを巡り、沖縄戦に動員された元学徒らでつくる「元全学徒の会」は30日、教科書で軍国主義の実態を学ぶよう求める声明を出した。「当時の教科書で、国のために死ぬことが奨励され、皇国史観を植え付けられたことが『集団自決』など沖縄戦の悲劇を生んだ」と指摘。教育と戦争の恐ろしさを伝えることが将来の戦争回避のために大切だと訴えている。

 元全学徒の会共同代表の瀬名波栄喜さん(94)は、戦前の教育の在り方を問題提起した。「集団自決」の背景として、戦死した軍人が教科書で賛美・崇拝され、学徒らも続くよう教え込まれたことを指摘した。

 教科書でそうした背景に触れられていないことについて、声明で「触れるべきだ」と批判。生き延びた元学徒らが教育の過ちや戦争の愚かさを教訓として語り継いできたとし、触れないことは、2007年の教科書検定意見撤回を求める県民大会決議にも反するとした。

 宮城政三郎さん(94)は「真実の歴史を多面的に教える教科書であってほしい」と望み、成人男性だけでなく、子どもや女性などの視点も大切にするよう促した。

 当時の島田叡県知事が「最後まで住民に生きるよう呼びかけた」との教科書の記述については「個人の思いはあっただろうが、絶対服従の軍命の下、学徒動員や一般住民を軍に協力させざるを得なかった」と指摘した。
 (中村万里子)


<全文>教科書で軍国主義教育の実態を学ぶよう求める声明
 

 

 来春から小学6年生が使用する全ての社会科教科書で、沖縄戦の「集団自決」(強制集団死)について、「アメリカ軍の攻撃に追い詰められ、住民が『集団自決』した人が多数いました」と表記されている。このような表現ではアメリカ軍の攻撃だけが「集団自決」の要因だと誤解される恐れがある。事実は渡嘉敷島で起きたように「捕虜になるなら死ね」「捕虜になったら殺される」と教えこんでいた日本軍による関与や当時の教育などの要因がある。

 当時、我々の小学校当時のテキストは軍事色・皇国史観が非常に強く、軍人を美化していた。戦意高揚を狙い、国のため、天皇陛下のために命をささげるようなことを教え込んだ。日清戦争でラッパ手として戦死した木口小平は「死んでもラッパを口から離しませんでした」と英雄視し、明治の軍人・乃木希典大将は、精錬な軍人として崇拝するように教育した。

 太平洋戦争中、県内の学徒たちは、一中の卒業生でガダルカナル島で戦死し、感状を授与された「大舛大尉に続け」と教えられた。「戦陣訓」で我々は「生きて虜囚の辱めを受けず」、敵の捕虜になっては恥だ、捕虜になるくらいなら自決しなさい、と教えられていた。

 我々の時代、教科書で皇民化教育や軍国主義教育で国のために死ぬことが奨励され、皇国史観を植え付けられていたことが、「集団自決」など沖縄戦の悲劇を生んだ。生き延びた学徒らは戦後、教育の過ちや戦争の愚かさを教訓として語り継いできた。「集団自決」についての記述では、その教育が背景にあったことに触れるべきであり、今回、小学校の教科書で触れていないことに憤りを覚える。2007年の高校教科書の検定で、沖縄戦を巡る住民の「集団自決」に日本軍が関与したという記述の修正を求める意見がつき、県民大会で意見撤回を求めた大会決議にも反する。

 戦時中の島田叡・沖縄県知事の功罪については両面がある。絶対服従の軍命の下、民政を預かる知事として学徒動員や一般住民を軍に協力させざるを得なかった。島田知事は国の「駒」として国策に従わざるを得ない立場であり、一中の学徒の証言でも残っているように、命を大切にしてほしいという一個人としてどうにもならない思いを持っていた面もあっただろうが、国策に絶対に従わなければならない立場で戦時行政を担った。

 小学生の教科書は、将来この国を背負っていく子どもたちに真実の歴史を多面的に教える教科書であってほしい。成人男性の視点だけでなく、子どもや高齢者、女性や母親が当時どのような状況だったかを学ぶ学習も必要である。戦争の恐ろしさ、戦前の軍国主義の教育の実態を子どもなりに学ばせる必要がある。我々が体験した皇民化教育と戦争の恐ろしさを教えることが、将来の戦争を回避するために大切なことでもある。以上、強く要望する。

2023年3月30日 元全学徒の会