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「交流の島」が「要塞の島」に 識者の見方(4)上妻毅氏(ニュー・パブリック・ワークス代表理事)自治力高め紛争回避を<自衛隊南西シフトを問う>28


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2000年代に合併問題で揺れた与那国町の「自立ビジョン」の策定に携わるなど、県内の離島振興や企画行政に関わってきた企画コンサルタント「ニュー・パブリック・ワークス」(東京)の上妻毅代表理事に紛争回避に向けた自治の必要性や取り組みなどについて聞いた。

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「『人間の安全保障』を目指した地域間協力の推進を」と述べた上妻毅氏(提供)

―ビジョンで掲げた「『辺境の島』から『交流の島』へ」の理念から島は様変わりした。

「与那国町は05年に『自立・自治宣言』を打ち出し、1982年の姉妹都市盟約調印から善隣関係を深めてきた台湾の花蓮市をはじめ近隣アジア地域との友好・交流を推進し、国際社会の模範となる地域間交流特別区の実現を掲げた」

「だが、現実には辺境の島から『要塞(ようさい)の島』となり、今や自衛隊関係者の票なしには町長になれない状況だ。当時の理念とは全く相いれない」

―沖縄が紛争に巻き込まれないための方策は。

「戦争ができない国境地域間の環境づくりを進めるべきだ。特に与那国のような国境離島については、常に台湾・中国を含む国内外の観光客が訪れ、行き交うような日常をつくることが望まれる」

「県がリアルな米中関係を分析し、今後の情勢などを展望することも重要だ。留意してほしいのは余計なバイアスは排除すること。近年、日本の政治も外交も対米関係のみを重視する『日米同盟バカ』に陥っている感がある。『日米同盟にとっての沖縄』の視点では沖縄が求める紛争回避にはつながらない。米中の動向分析を含め、県自身が独自に知見を集約し、地域外交に生かすべきだ」

―東アジアには東南アジア諸国連合(ASEAN)のような政治・経済的に結び付きを強める組織がないことも緊張が高まる要因とも言われる。

「海域の環境管理と国際的な連携を目的に11カ国の政府と地方政府、研究機関などが参加する『東アジア海域環境管理パートナーシップ(PEMSEA)』など、既存の組織を通じ地域間の結び付きを強めることもできる。安全保障論議からではなく、共通の方向性を見いだせる海洋ゴミ問題や水産資源管理などで地域間協力を促進する。海洋政策やブルーエコノミーは沖縄から積極的に働き掛けるべきテーマだ」

―紛争回避に向け県の主体性が発揮できる取り組みは。

「観光と防災が重要だ。台湾・中国双方からの観光客の往来が常時活発であれば自国民保護の観点から攻撃には踏み切れない。観光を組み入れた県独自の安全保障策の構築を期待する」

「また、例えば台湾で大規模地震が起きた場合、国境を越える緊急支援物資の提供や避難民の受け入れなどの援助は既存の法制度の中でもできる。その際の玄関口は先島諸島だ。地理的条件やさまざまな結び付きを生かし、県は『人間の安全保障』を目指した地域間協力を推進してほしい。併せて、さまざまな圧力をはね返すためには沖縄の自治の力を高めることが不可欠だ」

(聞き手 梅田正覚)

連載「自衛隊南西シフトを問う」

2010年の防衛大綱で方向性が示された自衛隊の「南西シフト(重視)」政策の下、防衛省は奄美、沖縄への部隊新編、移駐を加速度的に進めてきた。与那国、宮古島に続き、今年は石垣駐屯地が開設される。22年末には戦後日本の安全保障政策の大転換となる安保関連3文書が閣議決定され、南西諸島の一層の軍備強化が打ち出された。南西シフトの全容と狙い、住民生活への影響など防衛力強化の実像に迫る。

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