思いを馳せる 鈴木陽子(沖縄愛楽園交流会館学芸員)<未来へいっぽにほ>


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鈴木陽子

 私が仕事をしている沖縄愛楽園交流会館は、屋我地島の古宇利大橋たもとにある、沖縄愛楽園の一角にあります。愛楽園にはハンセン病回復者たちが暮らし、自治会が運営する交流会館は多くの人の思いがいっぱい詰まった資料館です。自治会が地域の人々と楽しむ夏祭りやゲートボール大会を開催してきたのと同様に、交流会館にも県内外の学校や団体が来るようになりました。

 コロナ禍で交流会館も臨時休館しましたが、昨年4月から通常開館に戻りました。7月からは企画展も再開し、今は小原一真さんの写真展を開催しています。ウクライナ戦時下、国の内外で分断され、排除され、孤立を深めているロマ民族の写真展です。

 小原さんは社会から見えなくされている一人一人の存在に目を向ける写真家ですが、コロナ禍で人と会うことができなくなりました。その中で小原さんは、人のいないコロナ病室や、療養施設の部屋の鍵を撮影し、その部屋を使っていた人の存在を浮かび上がらせました。コロナ病棟で看(み)取りをした看護師たちの記録にも取り組んでいます。記録は今、名桜大学と交流会館の合同企画として、大学学生会館で展示されています。

 2022年度は戦争とコロナ禍が続いた一年でした。愛楽園の在園者は、国が過ちを認めた隔離政策「らい予防法」の被害者です。沖縄戦時、愛楽園に隔離収容された人々が壊滅状態の園から逃げ出せなかったように、戦争の被害は排除される人々に凝縮されます。コロナ禍の行動制限の中で、私たちは愛楽園在園者がどのような思いで生きてきたのか、思い描くことができたでしょうか。