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行動伴わぬ「外交重視」 識者の見方(5)三牧聖子氏(同志社大准教授) 対話求める姿勢を<自衛隊南西シフトを問う>29


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同志社大の三牧聖子准教授(本人提供)

 安全保障関連3文書などについて、国際政治学者の三牧聖子同志社大准教授(アメリカ外交)に聞いた。

   ◇   ◇

 ―安全保障関連3文書をどう評価するか。

 「国民を守ると言いながら、内容は軍事的な安全保障に偏っている。沖縄の負担が増し、基地周辺の住民の生活が脅かされる。日米の軍事的一体化や有事への備えで具体的に生活が変わってしまう人がいることを踏まえていない。生身の人間を守る視点が必要だ。手続き上も問題がある。防衛費の増額は、GDP比1%を維持してきた経緯や平和国家としての歩みを踏まえて十分に議論すべきことだ。しかし、岸田文雄首相とバイデン米大統領との了解として、国民の頭越しに性急に決定されてしまった」

 ―防衛費増大の懸念は。

 「『国力』は総合的な概念だ。中国と軍事費の差が開いているのは事実だが、背景には経済力の差がある。中国は経済力を伸ばしてきたが、日本経済は縮小し、財政も不健全だ。不相応な軍拡をして国民を貧しくすることは、国を強くし、安全にするとの趣旨にかなっていない。他方、増税には反対しているものの、防衛力の強化自体に賛成している人も多い。無謀な軍拡に歯止めをかけて国民生活を守りながら、厳しい安全保障環境にどう対応していくか。知恵が問われる局面だ」

 ―安全保障上の脅威をどう捉えるべきか。

 「過剰にあおってはいけないが、脅威を見据える必要はある。その上で負担も平等にしなければならない。岸田首相も国民が等しく国防意識を持つ重要性を訴えてきた。その言葉通り、沖縄の過剰な基地負担に向き合う必要がある」

 ―日本政府の外交姿勢をどう評価するか。

 「国家安全保障戦略は外交重視をうたっているが行動が伴っていない。先日、岸田首相が中国大使の離任あいさつを断ったと報道された。相いれないからこそ対話を絶やさないということは、米国のような超大国さえ実行していることだ。地理的に中国に近く、経済的な依存度も高い日本はなおさら対話を求める姿勢を見せるべきだろう」

 ―県が地域外交室を始動させた。

 「万が一有事となれば最も巻き込まれる可能性が高いという危機感に立脚した対応とみている。脅威だからこそ積極的に対話の糸口を探すという現実的な姿勢で、政府にも沖縄の危機感やそこから生まれる対話の姿勢を理解し、見習ってほしい。沖縄だけではなく、台湾も中国の圧力に対抗するために対米関係を強めつつ、中国を刺激し過ぎないよう繊細にバランスを取っている。アジア諸国も大国同士の争いとは距離を取り、独自の外交を追求している。県の対応を『親中的だ』と批判する人たちは、沖縄の切実さに思いをはせるべきだ」
 (聞き手 明真南斗)

連載「自衛隊南西シフトを問う」

 2010年の防衛大綱で方向性が示された自衛隊の「南西シフト(重視)」政策の下、防衛省は奄美、沖縄への部隊新編、移駐を加速度的に進めてきた。与那国、宮古島に続き、今年は石垣駐屯地が開設される。22年末には戦後日本の安全保障政策の大転換となる安保関連3文書が閣議決定され、南西諸島の一層の軍備強化が打ち出された。南西シフトの全容と狙い、住民生活への影響など防衛力強化の実像に迫る。

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