反対拡大も政治動き鈍く 移設事業、先行き不透明 軍港計画日米合意


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那覇軍港から離陸するMV22オスプレイ=3月20日午後4時9分、那覇市(喜瀨守昭撮影)

 米軍那覇港湾施設(那覇軍港)の浦添市移設に向け、日米は20日の合同委員会で、代替施設をT字形として17施設を整備する計画で合意した。県や那覇、浦添の両市は政府と共に計画を進める姿勢を示すが、移設条件となる「現有機能の維持」が何を指すかが定まらないなど課題を残したままだ。

 移設阻止に向け、県民有志によるインターネット署名など、草の根で反対の動きも出てきた。だが、こうした動きについて県政与党間での議論は深まっておらず、政治レベルの反応は鈍い。

 ■腹一分

 玉城デニー知事を支える「オール沖縄」体制は、辺野古新基地建設に反対することを目的に保革を超えてまとまるため「腹八分、腹六分」で他の課題を脇に置く形で構築された。賛否が分かれる那覇軍港移設問題については「臭い物にふたをする」(オール沖縄関係者)形を取ってきた。玉城知事の2期目を懸けた2022年9月の知事選でも政策集に記述はなかった。

 与党内で軍港移設に反対を掲げる議員や会派でも玉城知事に翻意を促すことに積極的な動きがあるとは言いがたい。共産党県委の幹部は「オール沖縄体制は、私たちにとって腹六分どころか腹一分だ」と語った。

 2021年の浦添市長選では移設受け入れを表明した松本哲治市長に対して新人が反対を明確に掲げて臨んだが及ばなかった。「オール沖縄」内で移設反対を掲げる機運はしぼんだ。22年に自公支援で当選した知念覚那覇市長も移設容認の立場だ。

 玉城県政が移設の進展を認めていることに、支持層には不満も募る。県政野党からは辺野古新基地との「二重基準」が指摘され、県政のアキレス腱(けん)となっている。

 ■変化

 変化の兆しもある。立憲民主党県連は基地従業員の雇用不安定化に対する配慮などから軍港移設に対する立場をあいまいにしてきた。しかし、明確に反対を打ち出すべきだとの意見が高まり、党内議論が活発化している。

 県政内でもこのまま計画が進むことに懸念がくすぶっている。日米合意が発表された20日、県幹部の一人は「良かったとは言えない。(米軍や政府は)後から変更して機能を加えることがある」と懸念。日米が合意したものの「これからも変遷があるだろう。次の浦添市長選でどうなるか。辺野古のように行きつ戻りつするのではないか」と話した。

 日米合意を受け、野党県議の一人は「次は環境影響評価に進む。移設事業は加速していく」と期待を込めた。

 だが、松本市長を支える浦添市議会の与党幹部は「西海岸道路が開通し、多くの県民が浦添西海岸の素晴らしさに気付いた。都市部であることを考えると、辺野古以上に反対運動が盛り上がる可能性もある。スケジュール通り進むとは思えない」と先行きの不透明さを口にした。

(明真南斗、知念征尚、吉田健一)


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