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沖縄の問題「自分ごととして考えるように」 台湾で基地反対運動に取り組む理由 陳伊品さん <東アジアの沖縄・第1部「有事」への眼>2


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「台湾のために米中が戦争になるとは思っていない」と話す陳伊品さん=3月、台中市

 台中市の臨海地区にあるショッピングモール。前日まで近くに台湾軍の軍艦が寄港し、大勢の見物客でにぎわっていたという。3月下旬の週末の朝、のどかな時間が流れる地区に陳伊品(チェンイピン)さん(44)=台中市=と足を運んだ。陳さんは2001~02年に沖縄国際大に留学し、今は東アジアの基地反対運動に関わっている。陳さん自身、軍艦を見に行くことはあっても戦争への危機感は薄いといい、「台湾有事のために戦争になるとは思わない」と話す。

 陳さんは「台湾社会は親日、親米、親中でもある。われわれは戦争したいわけではない。米国は武器を売りたいし、軍拡競争のためにわざと緊張関係をつくっているのでは」と冷ややかだ。先日、「台湾有事」を心配する日本の友人から「やばいですよ」と切迫した様子で連絡があり、温度差に驚いたという。

 台湾の在り方については「独立した方がいいかもしれないが、ずっと前から、香港みたいな感じで一つの国の中で統治制度が違う。現状のままでいい。政府は台湾人が幸せになるバランスを見なければ」と話す。

 元々、基地問題に関心があったわけではない。初めて意識したのは、台湾に戻っていた2004年、米軍普天間飛行場所属のヘリコプターが沖縄国際大に墜落し、よく知っている大学のビルが燃えている映像を見た時だった。翌年、大学の墜落現場に足を運んだ。

 13年に台湾の若者たちと辺野古新基地建設の現場や伊江島を訪れた。沖縄戦から続く基地の負担、その苦しみの長さに驚き、沖縄の基地問題を自分ごととして考えるようになったという。「平和を取り戻したいという沖縄の戦争体験者の思いを理解している。私自身の体験ではないため、戦争への恐怖とか心の傷は一生理解できないかもしれない。でも、できるだけこの問題に関わる人々のスタンスで生きていきたい」

 陳さんとの穏やかな会話の途中、時々台湾軍の戦闘機が上空をごう音で飛んでいった。「よく飛んでいますよ」と目をやる。台湾では、沖縄の米軍や自衛隊の軍備強化は歓迎される一方、基地反対運動はあまり広がっていないという。軍備増強が抑止につながるという世論が強いためだ。「そういう(基地反対の)話題をすると、台湾の安全性を心配する声が大きい。平和に(戦争回避)した方がいいのは知っているが、簡単には賛成されない」

 小さな声でも問題を人ごとにせず、みんなでつながりたい―。それが陳さんが基地反対運動に関わり続ける理由だ。「大きな力になれないかもしれないが、地球という土地でつながっている。各地でみんなでつながって連帯という意味で、支え合う気持ちでいたい」

(中村万里子)