―北海道洞爺湖サミットは北海道にどんな恩恵をもたらしたか。
「大きいのは北海道の食と観光を世界に売り込めたことだ。サミットには中国や韓国、アフリカ諸国など当時の主要8カ国以外の首脳も集まり、同行した各国のメディアが北海道の情報を発信してくれた。2008年に262億円だった道産食品の輸出額は、22年の統計で1500億円に達する見込みだ。来道外国人観光客も18年度で311万人と、08年度の4倍以上となった。サミットが大きなきっかけになったと考えている」
「次に豊かな自然や雪氷エネルギーなど、北海道の環境資源をPRできたこと。主会場のホテルにアイヌ文化を紹介するパネルを展示し、広く知ってもらえたのも意義深かった」
―開催による悪影響は。
「マイナス面はあまりなかったと思う。ただ、北海道は広大なので、一体となってサミットを盛り上げる意識を醸成する難しさは感じた。サミットの通称に『北海道』を入れることにこだわったのも、地域全体で取り組む意識を持ってもらうため。政府からは長すぎると相当難色を示されたが、意見を貫いた」
―サミットの開催費用と道の負担は。
「当時の道は財政再建のため一般職を含めた職員の給与を削減していたこともあり、一定以上の負担はできないと考えていた。政府の配慮もあり、総額264億円の開催費用のうち地元負担を22億円に抑えることができた。他のサミットと比べると少ないと思う」
―各国首脳らとの思い出は。
「主要国首脳の夫人にアイヌ民族の伝統衣装『アットゥ〓(樹皮衣)』を着てもらったことだ。私が着用して案内したら、当時のブッシュ米大統領夫人のローラさんが『私たちも着ましょう』と言って記念撮影したのはうれしかった。また、サミット前日の7月6日はブッシュ氏の誕生日で、福田康夫首相がお祝いの席を設けた。ブッシュ氏は道産のブランド牛などを味わい『北海道の食材はおいしい』と語ったと聞いた」
―開催地がサミットの恩恵を受けるにはどうすればいいか。
「世界に対して地元をアピールできるまたとない機会。住民を挙げてアピールする知恵と工夫を凝らすことに尽きる。今回開催地となる広島は世界で二つしかない戦争被爆地であり、岸田文雄首相の地元でもある。世界平和に向けたメッセージは大きいものがあるのではないか」
―北方領土問題を抱える北海道の元知事として広島サミットではロシアに対してどのようなアプローチを期待するか。
「ロシアがウクライナを侵攻している現状を考えると、厳しいメッセージを出さざるを得ないだろう。ただ、われわれ(日本とロシア)は永遠の隣国だ。これまで地域同士で積み上げてきたコミュニケーションもある。今後の領土交渉も見据え、日本政府にはロシアと一定の関係を維持するよう期待する」
※注:〓は小さい文字の「シ」
(聞き手 北海道新聞・吉田隆久)
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たかはし・はるみ 1954年、富山県生まれ。一橋大卒業後、旧通産省入省。北海道経済産業局長などを経て、2003年4月の道知事選で初当選。19年まで4期務める。同年7月、参院道選挙区に自民党公認で出馬し、初当選。現在1期目。
北海道洞爺湖サミット 過去最大22カ国参加
2008年7月7~9日、北海道洞爺湖町などで開催。G8に加え新興国やアフリカ諸国など、過去最大規模の22カ国が参加した。
主要テーマとなった環境・気候変動問題を巡っては、G8が50年までに温室効果ガスを半減させる長期目標を「世界全体の目標として採択されることを求める」ことで合意。温暖化対策の国際枠組みであるパリ協定につながった。留寿都(るすつ)村に建設された報道拠点「国際メディアセンター(IMC)」は雪の冷気を活用した冷房システムを採用し、注目を浴びた。
世界経済では、米国の低所得者向け高金利型(サブプライム)住宅ローン問題に端を発した株安やドル安の影響による「原油や食料価格上昇に強い懸念」を表明したが、閉幕の2カ月後に米証券大手リーマン・ブラザーズが破綻。世界金融危機(リーマン・ショック)を引き起こした。
衆参で多数派が異なる「ねじれ国会」に苦しんだ福田康夫首相は、サミットの2カ月後の9月1日に退陣を表明。24日に内閣総辞職した。09年1月に任期満了を迎えたブッシュ米大統領にとっても在任中最後のサミットとなった。
〈用語〉G7サミットとは
先進7カ国(G7)が持ち回り開催する首脳会議。1975年に開始。当初は日本、米国、英国、フランス、西ドイツ、イタリアの枠組みで、76年にカナダが入った。冷戦終結後の97年から加わったロシアは、ウクライナ南部クリミア半島を2014年に併合したため排除された。日本開催は79年、86年、93年が東京都、2000年が沖縄県、08年は北海道、16年が三重県。広島サミットは5月19~21日に開かれ、日本、米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダに欧州連合(EU)が加わり、ウクライナ情勢や世界経済、新興・途上国への支援拡大など幅広いテーマで議論する。