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沖縄で学び実感「戦争で問題解決できない」 中国人留学生のワンチーリンさん <東アジアの沖縄・第1部「有事」への眼>3


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「沖縄の平和の思いを広げたい」と話す中国人留学生のワンチーリンさん=3月、琉球大学

 武漢大の博士課程に在籍する中国湖北省出身の万〓■(ワンチーリン)さん(27)は昨年9月、琉球大の研究生として沖縄に来た。1年間の予定で、人文社会科学研究科で沖縄近現代史を研究する。78年前の沖縄戦体験者らが語る戦争の悲惨さや平和への強い思いに触れ、「沖縄の人たちは本当の戦争を知っている。どれほど残酷だったのか、戦争を絶対にやってはいけない、という思いが分かってきた」と話す。

 専攻は日本史で、福建師範大の院に進学。初めて中琉関係史に触れた。かつて琉球王国が中国(明(みん)・清(しん))と500年以上、戦争のない平和交流をしていた歴史を知り、「沖縄の人々がどう考えているのか、歴史の背景や沖縄の近現代史を学びたい」と望んだ。

 沖縄で初めて沖縄戦に触れた。日米の地上戦の巻き添えになった人たちから体験を聞くほど、万さんは、平和は武力によってもたらされるものではないと実感を深めた。「平和そのものが沖縄だ。中国人として沖縄の人に学ぶこと、それは平和だ。戦後処理はいまだに続いている。戦争で問題は解決できない」

 住民の視点で戦争体験を記録して学ぶ、沖縄の平和学習は「とても有意義で必要だと思う。中国でも幅広い地域や人々に普及すればより良いと思う」とも話す。

 3月下旬の週末、万さんは琉球大の学生たちと一緒に、ひめゆり平和祈念資料館や糸満市摩文仁の平和の礎を訪れた。平和の礎は1995年、県が世界の恒久平和を願い建立した刻銘碑で国籍や軍人、民間人の区別なく沖縄戦などで亡くなった全ての人々の氏名を刻む。建立に携わった高山朝光さん(88)=元県知事公室長=はこう解釈する。「戦争を憎み人は憎まない、平和を愛する県民の心だ」

 万さんは、県民の思いは中国にも通じるところがあると話す。「歴史をしっかり銘記しなければならないが、恨みは記憶すべきではない」―。中国にある南京大虐殺を伝える博物館の説明書きを引用し、教訓をくみ取る。「恨みは、戦争をもう一度招くだけで何もならない。それが戦争を体験した、沖縄と中国の住民の平和への本音だと思う」

 米中対立が深まり、日中関係が悪化している状況について聞くと「人々が東アジアで国境を超え、交流したほうが良い。友達がいる国とは戦争したくないよ」と率直な答えが返ってきた。

 今は深夜まで勉強に没頭する日々。この先沖縄を離れても、自らもその思いを伝える担い手になりたいと考えている。「中国や世界の人々に、沖縄の人たちの平和思想を知ってほしい。自分はどんな場所にもそれを持っていきたい」。国同士の政治的緊張を和らげるのは、人々の“つながり”と沖縄の平和思想を広げることだという思いを強めている。

※注:〓は「斎」の「示」なし、■は山ヘンに「令」

(中村万里子)