食べて守るおいしさ 再び逆風 伝統こだわり〈島豆腐と世替わり・下〉


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手際良く島豆腐を作る従業員=12日、糸満市の宇那志豆腐店(大城直也撮影)

 糸満市の宇那志豆腐店で湯気を上げる出来たての島豆腐。包丁で切り分け袋詰めされると、すぐに保温ケースに入れられた。車でスーパーなどに配送。完成から1時間半以内には店頭に並ぶ。女性従業員は「以前より急ぐようになった。特に冬場は気を使う」と話す。

 「あちこーこー(熱々)」の島豆腐が日本復帰(1972年)に伴う食品衛生法適用の危機を乗り切って半世紀。業界は再び逆風に立たされている。2021年6月に国際的な衛生管理基準HACCP(ハサップ)に沿った対応が義務付けられた。菌の増殖を抑えるため、納品後に55度を下回り始めると3時間以内に消費するか冷蔵保存とする新基準となった。販売量は減少し豆腐店の経営を圧迫する。

 温かい豆腐作りにこだわる宇那志豆腐店は、製造工程や配送ルート、保温材などを見直し、スタッフも増員した。それでも、当初は売り切れず廃棄を余儀なくされるケースがあった。大城光社長(39)は「販売できる時間は(以前の)半分。納品先1カ所当たりの販売量は2割ほど減った」と頭を抱える。

 県豆腐油揚商工組合によると、20年に61人だった組合員数は廃業などで約40人に減った。食文化の多様化で「冷たい豆腐」を好む層が増え、原料の大豆価格の高騰にも苦しむ中、ハサップが追い打ちをかけた。

 現状は厳しいが大城社長は伝統的な「あちこーこー」にこだわり「より安全安心になったと考えるしかない」と前を向く。

「あちこーこー」豆腐を「存続のために買い続けて」と話す琉球料理保存協会理事長の安次富順子さん=11日、那覇市首里

 一方、業界では島豆腐を使ったスイーツの開発など消費拡大に向けた試行錯誤が続く。

 琉球料理保存協会の安次富順子理事長(80)は「買ってそのまま食べるわけではない。なぜそこまでぴりぴりするのかね」と新基準に疑問を呈する。豆腐チャンプルーを作る時は真っ先に豆腐に焼き目を付けるなど、島豆腐は火を通して食べることが少なくない。

 それでも沖縄の人が熱々にこだわる理由を「水にさらすとうまみが逃げ、豆のにおいや塩気がなくなりおいしさが失われるから」と分析する。

 安次富理事長は最近、「あちこーこー」が手に入りづらくなったと感じるという。「だからこそ、食べてもらっておいしさを伝えたい」

 豆腐業界が新基準に翻弄(ほんろう)される中、4月下旬朗報が届いた。厚生労働省が衛生基準を定めた小規模事業者向けの「手引書」の改定を認める方針を示した。基準緩和が期待される。

 復帰から51年。本土並み、国際水準へと島豆腐は法制度の変化の荒波にもまれてきた。環境は変わっても、沖縄は全国一の豆腐の消費支出額を誇る。「あちこーこー」を守る業者と県民の島豆腐への思いは変わらない。

 (慶田城七瀬、西日本新聞・泉修平)