<書評>『大学で学ぶ 沖縄の歴史』 「なぜ」「どのように」引き出す


社会
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『大学で学ぶ 沖縄の歴史』宮城弘樹、秋山道宏、野添文彬、深澤秋人編 吉川弘文館・2090円

 普天間飛行場に隣接する沖縄国際大学。本書は、そんな危険と隣り合わせの大学の教員および特別研究員24人が、それぞれの専門領域の視点からまとめた琉球・沖縄の通史である。

 「大学で学ぶ」と銘打っているように入門書としてはやや難しいが、最新の研究水準を踏まえたテキストであり、県内外の多くの方々に読んでもらいたい。とりわけ、県内の高等学校の歴史教師には、ぜひ参考にしてほしい教材である。

 沖縄は他の都道府県に比して歴史への関心が強い地域といわれており、各市町村史や沖縄県史も充実している。半面その研究成果は「県民の知的共有財産にはなっていない」との指摘もある。学校教育で琉球・沖縄について学ぶ機会が少ないため、若者の沖縄の歴史や文化に対する認知度が低く、目前にある沖縄のさまざまな課題に対する理解も浅いのが実情だからだ。

 歴史教育における琉球・沖縄史学習の役割は、単に私たち祖先の足跡を学ぶことにあるのではない。身近な史実に興味をもたせ、歴史事実を深く掘り下げて考えさせる探究心や思考力を培うことにある。本書の特徴は、単に事実関係を理解するのではなく、「なぜ」「どのように」の問いを意識して著述していることである。琉球独自の歌舞劇・組踊について言えば、玉城朝薫が清国からの使者・冊封使を歓待するため、能・狂言などを参考に琉球の古事を基に創作したことを説明。そのうえで、「忠」「孝」を主題にすることで中国皇帝の徳治が琉球に浸透していることを強調し、冊封関係の維持に一翼を担っていた、と解説する。こうした「歴史の見方・考え方」を授業に取り入れることで、琉球・沖縄史への興味・関心を引き出す学習ができるだろう。

 巻末では、2004年8月13日に起こった「沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落事故」を特論として収録し、日米地位協定の壁に阻まれた事故対応の問題点や、教訓を記している。

 新しいタイプの通史であり、琉球・沖縄史の学び直しに読むのもよい。

 (新城俊昭・沖縄大客員教授)


 みやぎ・ひろき(沖縄国際大准教授)、あきやま・みちひろ(同)、のぞえ・ふみあき(同)、ふかざわ・あきと(同教授)が編著を務めたほか、沖縄国際大の教員を中心とした20人が執筆を担った。