【深掘り】政府が久辺3区との懇談会を4年ぶりに開催 「異例の厚遇」の背景に何があったのか


この記事を書いた人 琉球新報社

 名護市の渡具知武豊市長や米軍普天間飛行場の移設先周辺の名護市辺野古、久志、豊原の3区(久辺3区)の区長が24日に中央省庁を訪れ、関係する大臣らに直接面会した。25日には久辺3区長と政府が話し合う「久辺三区の振興に関する懇談会」も約4年ぶりに首相官邸で開かれた。国会開会中ながら、松野博一官房長官らが直接対応した。予算を背景に国策を前進させようとする政府の姿勢が改めてあらわになった。一方、辺野古移設に反対する沖縄県の玉城デニー知事が久辺3区長と面談した直後のタイミングとなり、知事周辺からは警戒感が漂う。

「久辺3区」区長らと懇談する松野官房長官(右から2人目)=25日午後、首相官邸(共同通信)

 ■官房長官、連日の面談で地域振興を約束

 24日午後4時頃、防衛省1階の広場では車両2台をウクライナに引き渡す式典が催されていた。ウクライナのコルスンスキー駐日大使に目録を手渡したのは井野俊郎防衛副大臣で、浜田靖一防衛相の姿はなかった。その頃、浜田防衛相が同じ防衛省内で会っていたのが名護市の渡具知市長や久辺3区長だった。

 防衛省幹部は「常々、地元には丁寧に対応するように言っており、自ら体現した」と説明する。

 松野官房長官も2日連続で久辺3区長と顔を合わせた。25日の懇談会は名護市長抜きで、官房長官と区長が同じ席に着いた。政府関係者は「普通はあり得ない」と語る。

 懇談会冒頭、島袋茂辺野古区長は埋め立て工事について「4月末時点で辺野古側が約94%、事業全体も約15%」と最新の数字を用いて進展を強調した。これに対し、松野官房長官は「最も大きな影響を受ける久辺3区にできるだけの配慮をする」と返し、基地負担と引き替えに地域振興を進める方針を鮮明にした。

 

■地元の要望聴取で国と県が綱引き

久辺3区長の下を直接訪れ、初めての意見交換に臨んだ玉城デニー知事=5月19日午後、名護市の辺野古区公民館(喜瀨守昭撮影)

 今月19日には、玉城知事もまた久辺3区長らを訪ねたばかりだった。その直後に、政府は懇談会を開催した形となる。これまで4年間、開催してこなかった理由を政府は新型コロナウイルス禍だったとし、たまたま調整が付いたタイミングがこの日だったと説明した。ただ、懇談会では目玉となる新たな振興策が示されたわけではなかった。

 知事周辺の一人は必然性をいぶかしがり「知事が3区長と会うことを受けて、急いでセットしたとしか思えない」と語り「知事と政府の違いを見せつけたい思いもあったのだろう」と分析した。

 玉城知事は久辺3区との面談で、辺野古移設に反対する理由や国との裁判闘争への思いを伝えたが、地元の要望に対する県の取り組み状況を説明するにとどまった。政府関係者は「地元の要望を聞いて『県が実現するから、移設に反対してくれ』と言うなら分かるが、意味があったのか」と疑問を呈し、政府の手法との差を強調した。

 政府は基地の受け入れ度合いや政府への協力状況に応じて予算を増減させる手法を使ってきた。県関係者はあくまで限られた予算で県全体の行政を進めなければならない県の事情に触れ、「県にはお金もなく、必要な事業を粛々やるしかない」と話した。

 玉城県政は、日米両政府と県の3者による話し合いの場を設けるように求めているが、両政府は応じていない。玉城県制を支える与党県議の一人は、県が久辺3区との対話を進めることを引き合いに「国も県との真摯(しんし)な話し合いを進めるべきだ」とくぎを刺した。

 (明真南斗、知念征尚)