【識者談話】宿泊税の導入議論 来訪者にも負担求める仕組み必要 青木宗明氏(神奈川大経営学部教授)


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 沖縄県内では宿泊税の導入を巡って県や市町村の議論が進んでいる。行政が宿泊税を検討する背景や制度設計における課題について、税制が専門の神奈川大経営学部の青木宗明教授に聞いた。


 

 沖縄本島や離島など外からの来訪者が多い自治体が法定外税を構想するのは正当で、立派な根拠がある。日本の地方財政システムは、地方税と、地方税だけでは不足する財源を埋める地方交付税で成り立っているが、いずれも定住者を想定しており、来訪者に負担を求める仕組みが存在しないからだ。訪問者の多い自治体は、訪問者に負担してもらう宿泊税などの法定外税を作らねば、多数の訪問によって増える行政経費を賄えない。

 宿泊税を構想する上で注意すべき点は2点ある。一つは、税収の使い途を「観光振興・整備」に限定する目的税ではなく、使途を限定しない普通税とすることだ。既存の宿泊税は全て目的税だが、宿泊者は観光客に限らない。ビジネス訪問の人々は観光とは無関係にもかかわらず、観光事業だけに使われる宿泊税を負担させられてしまうという矛盾が生じる。

 もう一つは、宿泊に課税する根拠を、「来訪者が行政サービスを増やすので、増大する費用の一部だけでも負担してもらう」と明確にすることだ。多数の来訪で増える費用は観光に限らない。ごみ処理や上下水、道路拡張等の一般的な行政サービスも増大する。

 行政サービスの一部を負担してもらう、という課税根拠なら、宿泊税を普通税にでき、目的税で生じている矛盾を回避することもできる。10月から実施される廿日市市(広島県)の宮島訪問税は、この課税根拠に基づき、わが国で初めて認められた「原因者課税」の法定外税だ。

 宿泊税を沖縄県と市町村の両者が導入する際の課題がある。いずれの自治体にも独自課税の権利があるが、国からは両者に「調整」が求められる。県と市町村のダブル課税は、いわゆる二重課税という点で望ましくない。

 さらに、ダブルで課税する市町村と、県だけが課税する市町村との間で税負担の不公平が生じさせてはならず、県と市町村との間の率直な協議と民主主義に基づく公正な検討が強く求められる。

(租税論)