「今の状況、戦争前夜そのもの」 元学徒ら危機感 3年ぶり「元全学徒の会」が追悼式 沖縄・糸満


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「全学徒隊の碑」の前で献花し、亡き学友に手を合わせる元学徒ら=13日、糸満市摩文仁の平和祈念公園

 13日に糸満市摩文仁の平和祈念公園で3年ぶりに開かれた「全学徒戦没者追悼・平和祈念の会」。風雨が吹き付ける悪天候の中、90代半ばに達する元学徒ら7人が病や体力の限界を押して集まった。沖縄戦で10代半ばの男子や女子学徒が戦場にかり出され、大勢の犠牲を出したことを「平和教育の指針に」と平和宣言で訴え、戦争を回避し命を大切にする教育を今の時代に求めた。軍国主義教育の下、戦争に突き進んだ状況を「どれほど浅はかだったか」と口々に語った元学徒ら。南西諸島への軍備増強が進む今の状況に当時を重ね、懸念を強める。

 元全学徒の会共同代表で、元県立農林学校生の瀬名波栄喜さん(94)=那覇市=は「“東洋の平和”とか“勝利の日まで”と口ずさみながら、陣地構築に一生懸命だった」と1944年当時を振り返る。中国などから沖縄に日本軍が集結してきた当時と、現在を重ね「雪崩を打って自衛隊が宮古や八重山に押しかけている。今の状況は戦争前夜そのものだ」と危機感を抱く。

 県立農林学校の卒業直前に徴兵された渡口彦信さん(96)=読谷村=も「戦時中は大本営発表しか知らされず“鬼畜米英”と教えられた」と語る。戦争を美化することなく歴史教育を施し、将来の戦争を阻止することを求めた。

 小学2年の時に日中戦争が勃発し、小中を通じて軍国主義教育を受けた、元県立第一高等女学校生の翁長安子さん(93)=那覇市=は「自分の家族よりも皇国を守ることが良いとされ、敵を殺して天皇のために死ね、と教えられた」と振り返る。本島南部で激しい砲爆撃から逃げ惑った翁長さん。「与えられた命を全うできるように、安心して生きられる平和な社会をつくる教育をしてほしいが、今の教育や国の方向性はそうなっていない」とも。政府の反撃能力(敵基地攻撃能力)保有に「真っ先に攻撃されるのは基地がある場所だ」と懸念を強める。

 元全学徒の会幹事で元県立第一中学校生の山田芳男さん(92)=那覇市=は、宮古や八重山での自衛隊の配備を受け「日本が戦争できる国になりつつあるのが、残念でたまらない。戦争は絶対に起こしてはいけない」と切望した。元学徒らは、ロシアによるウクライナ侵攻にかつての沖縄戦を思い起こし、心を痛める。私立昭和高等女学校出身の上原はつ子さん(94)=那覇市=は「戦争は絶対にだめ。なぜ世界は止めることができないのか」と、侵攻を止められない日本や世界各国にいらだちを示した。(中村万里子、小波津智也)