【記者解説】玉城知事、変容する安保にくぎ 首相、県民に説明なし 沖縄全戦没者追悼式


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式典後、取材に応じる玉城デニー知事=23日午後2時ごろ、糸満市摩文仁の平和祈念公園(喜瀬守昭撮影)

 戦後78年の沖縄全戦没者追悼式の平和宣言で、玉城デニー知事は昨年12月に閣議決定された安保3文書について、県民の間に大きな不安を生じさせていると指摘した。例年通り米軍基地問題の解決を求めるだけでなく、自衛隊の配備、増強に懸念を示した。一方、岸田文雄首相はあいさつで「南西シフト」に一切触れず、新たな負担からは目をそらした格好だ。

 沖縄戦の教訓を受け継ぐ県民の間には、軍事基地が有事の際に標的になるという懸念が強くある。熊本博之・明星大教授らの研究グループによる世論調査では、軍事基地が標的になると答えた県民は8割を超えた。

 こうした県民の懸念を背景に、玉城知事は9日に上京し、防衛省に対して反撃能力(敵基地攻撃能力)を有するミサイルを県内に配備しないよう求める要請書を提出したが、首相や官房長官との面談は実現しなかった。

 玉城知事は式典後、記者団から3文書に触れた思いを問われ「絶対に自分たちから先制攻撃をしないという、国際法にのっとった国家であり続けるということをきちんと国民に説明し、国民は政府の姿勢を注視してほしい」として、専守防衛を堅持するよう政府に求めた。全国の注目が集まる慰霊の日に、県民の安全を最優先する県知事の立場から、変容する安全保障の在り方にくぎを刺した形だ。

 岸田首相はあいさつで「我が国を取り巻く安全保障環境は、戦後最も厳しく、複雑な状況にある」と話した。式典後、軍拡競争を防ぐためには「多くの国に、自国の安全保障政策の具体的な考え方を明確に説明すること、透明性の確保が重要だ」と話した。

 しかし、陸上自衛隊与那国駐屯地への地対空誘導弾(ミサイル)部隊配備計画について詳細な説明をしないことや米軍関連の問題など、政府の沖縄への向き合い方は説明が尽くされず、「透明性」が確保されているとは到底いえない。県民の懸念を一顧だにしない安保政策を推し進めるようでは、戦没者に誓う恒久平和も空疎に響く。
 (沖田有吾)