マイナカードに別人の写真が 久米島で4人分を取り違え 続出する返納に自治体は…


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マイナンバーカードの交付などについて知らせる那覇市役所のホームページ

 マイナンバーカードを巡る本紙の全市町村調査で、久米島町で顔写真を取り違えた事案が発生したことが分かった。別人の顔写真で一部カードが発行され、当事者の指摘でミスが発覚した。間違ったカードはすでに回収され、破棄されている。全国ではマイナカードを使った証明書交付の誤発行、マイナ保険証のひも付けミスなどトラブルが続々と報告されている。全国的なトラブル報告の増加に伴い返納も増えている。カードを保有し続けるかどうかは個人の自由。本調査から打開策を見いだせず困惑する市町村の様子が浮かび上がった。

 久米島町の取り違えは2件、4人分だった。1件目は、2022年9月に30代と10代の親子が役場の窓口を一緒に訪れて、持参した顔写真で申請した際に起きた。町によると、マイナポイントの付与期限が迫り窓口が混雑していたため、顔写真を申請書にその場で貼り付けず、一度クリップで留めていた。その際に写真が入れ代わり、誤った写真が申請書に貼り付けられたという。23年2月に申請者が間違いを指摘した。ミス発覚後、町は写真の裏に、氏名を記すよう運用を改善した。

 2件目は23年2月に20代の女性2人が申請したもので、写真の持ち込みはなく、役場職員が顔写真を撮影した。撮影時間が近かったため、オンライン手続きの際、写真の取り違いが起きた。4月に申請者が申告した。同町は「現在は申請書に撮影時刻と写真の番号を記載し、再発防止策を図っている」と説明する。

 返納は全国的なトラブル判明後に増えている。最も多い沖縄市では16人全員が6月に入ってから返納した。同じく16人のうるま市も、4月3人、5月2人だったのに対し、6月に11人と増加した。沖縄市によると、返納者の半数が「報道でトラブルを知り、制度に不安を感じた」などと話した。

 返納への対応策として、糸満市と嘉手納町が「再発行には手数料が必要なことを説明する」と答えたものの、特に打つ手がない状態だ。宮古島市は「マニュアルに沿って運用するしかなく、自主返納者の対策なども難しい」と話した。
 (藤村謙吾、岩崎みどり)


<識者談話>個人情報保護 在り方議論を

前津榮健・沖国大教授

 政府は全国的にマイナンバーカードの普及を懸命に推し進めてきたが、トラブルが相次いだことで国民の不信を買ってしまった。マイナンバーカードが本当に必要だと言うならば、政府はポイント付与などの手段に訴えるのではなく国民に丁寧にカードの必要性を説明し、理解してもらわなければならない。

 県内では6月末時点で107件の自主返納があったということだが、返納は個人情報流出の懸念など、システムに対する不信感の表れであり、国が性急に物事を進めたための結果とも言える。

 そもそも日本は個人情報の保護やシステムのIT化が遅れている。個人情報を巡っては、住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)導入の際にもトラブルがあり、条例による対応などがなされた。2021年には個人情報保護法が改正され、国の行政機関や地方自治体などがこれまで別々の法律や条例によって運用してきた個人情報の取り扱いが一元化された。しかし、国会でもあまり議論されず、マスコミも注目してこなかった。いま一度個人情報保護の在り方についてきちんと議論すべきだ。

 マイナンバーカードの自主返納は個人情報保護に対する意識の高まりもあって増える可能性が高い。国民が抱いた不信感はカードの名称が変わったとしても消えることはない。政府はマイナンバーカードの普及と健康保険証の一体化などを推し進める方針だが、信頼回復に向けて大きな課題を抱えている。自主返納を抑えるには国がシステムが万全であることを示し、理解を得られるか否かにかかっている。
 (前津榮健・沖国大教授 行政法)