「夢中」になること 新しい世界への原動力 真栄田若菜(一般社団法人IAm(アイアム)共同代表理事)<女性たち発・うちなー語らな>


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真栄田若菜

 暮らしている場所、国籍や言語、その他の属性にかかわらず、私たちを突き動かすもの。それが「夢中」である。

 それは国内外の俳優やアイドルかもしれないし、アニメやゲームのキャラクター、コレクションしている物や趣味の活動かもしれない。そこに決まった形や属性は無いが、「夢中」になれる人や事は、インターネットを通じて、年代や国籍をも超えて、あらゆる場所にコミュニティーを生み出している。

 先日、母の故郷である石垣島へ親戚を訪ねに行ってきた。

 農業をしている叔父・叔母と食事を楽しんでいる中で、叔母が、とある若手俳優が好きだという話題になった。毎朝、新聞を開いては、その俳優の名前が出ていないか見るのが日課で、写真集が発売されればネットで注文し、石垣島の自宅に配達される数週間の間、手元に届くのが楽しみで、暑い日差しの下での畑仕事も頑張れるのだという。満面の笑顔で少し照れながら話す姿はとても輝いていた。

 また、海外にいる米国人の友人は、とある韓国アイドルに夢中で、子育てや仕事をしながら、新作情報(イベントやアルバム、写真集など)に加え、韓国限定・日本限定の物が出ていないかも随時目を光らせている。韓国語を少しずつ勉強し、韓国でのイベントやコンサートに行くことを目標にしているのだと言う。

 夢中な事を考え、その事を話している時間は普段の生活から解放され、特別な世界に連れていってくれる。昨年まで旅行やイベント開催に制限が掛かっていたものが多かったため、彼女たちにとってネット上でつながるコミュニティーや情報は、心のよりどころであった。

 夢中になれる存在が、普段の生活をさらに輝かせる原動力になる。ネットコミュニティーを通じて、同じ夢中の世界にいる仲間と出会ったり、翻訳アプリを利用して対話をしたりする、年代や国籍、言語を超えたコミュニティーが、そこにはある。

 社会人になると、自らの意思で違う世界への扉を開くことは難しい場合が多い。子どもの頃に夢中になった事やその記憶は、大人になる過程で変わったり、記憶が薄れていってしまったりするものもあるだろう。しかしその先には新しい夢中との出会いが待っていて、それはまた私たちを新しい世界へと導いてくれる。また私たちをワクワクさせてくれる。

 時代が変わっても、夢中が与えてくれる原動力は変わらない。ネットコミュニティーが多様化し、旅行などの制限も緩和してきているこの夏、ふとしたきっかけが夢中への扉を開くかもしれない。