有料

エイサー通し描いた沖縄戦など 又吉栄喜さん、短編小説集「夢幻王国」を出版


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
「夢幻王国」を出版した又吉栄喜さん=琉球新報社

 作家・又吉栄喜さんの短編小説集『夢幻王国』が6月末出版された。「沖縄戦幻想小説集」と銘打ち「全滅の家」「兵の踊り」「平和バトンリレー」「夢幻王国」「経塚橋奇談」「二千人の救助者」の6編(書き下ろし4編、新聞小説2編)を掲載している。

 慰霊の日が終わり、日常に戻ると、沖縄戦の話題は少なくなる。又吉さんは「平和とは何か、戦争とは何かを忘れさせないよう幻想風な小説にした。日常のディテールの中に潜んでいる沖縄戦を、民俗行事や伝統芸能の素材と融合させる形で表現した」と言う。直接的な戦闘シーンの描写がないのもこの小説の特徴だ。

 「兵の踊り」は、背丈が低いという理由で徴兵されなかった主人公の「僕」を、エイサー行事を通して描いている。常に劣等感を抱き、「非国民」のレッテルを貼られるのを怖がる「僕」は、エイサーのチョンダラー役では存在感を示す。やがて戦争が始まり、戦地に赴いたエイサー仲間は全員、白木の箱に入って帰ってくる。戦後、エイサーが復活することになり、旧盆のウンケー(迎え)の日、「僕」にとってのエイサーが夢うつつに始まるというストーリーだ。又吉さんは「戦死者のむごさ、戦争は地続きであるということをテーマにした」と話す。

 執筆の発想については「地下にある私の精神性が、地上の動きで呼び出されて作品になる」と言う。1947年、浦添村(当時)で生まれ育った又吉さんはガマや米軍基地、浦添グスク、伝統行事、祈りの場など沖縄の原風景を蓄積し、自身の小説に数多く取り込んできた。「小説は日常生活と密着している。今回の作品では沖縄戦が現代の人に与えたもの、忘れてはいけないものを意識して書き、平和を求める心を伝えたかった」と語っている。

 文学仲間の大城貞俊さんは「ボーダーレスな世界を一個の人間を通して描いている。言うなればこの世とあの世もボーダーレス。新しい試みの又吉文学を読むことになる」と話している。

 発行はインパクト出版会。1980円。

(上原修)