<書評>『DOHaD学説で学ぶ胎児・赤ちゃんから始める 生活習慣病の予防』 子が健康に育つ社会願う


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『DOHaD学説で学ぶ胎児・赤ちゃんから始める 生活習慣病の予防』安次嶺馨著 幻冬舎・1650円

 DOHaD(ドーハッド)とは多くの研究者によって導かれた生活習慣病の発症に関する学説である。その入門書が、日本ドーハッド学会顧問で新生児医療の第一人者である著者によって出版された。

 本書は7章から構成されている。バーカー仮説からドーハッド学説に至るまでの歴史は第1、2章でわかりやすく解説されており、第3章では「生活習慣病ツリーと長寿ツリー図」が紹介される。ツリーの根、幹、枝葉を胎児期、小児期、成人期に例えて、生活習慣病ツリーに各期のリスク因子を示している。健康的な生活習慣と食生活は長寿ツリーに示されている。著者は「出生時にベストスタートが切れない場合でも挽回可能であることは、DOHaDの考え方で説明できる」と第1章のコメント欄で述べており、「母親となった未熟児」と「タンザニアのタカ子」の挿話は、そのコメントを支持する貴重な報告である。第4章では欧米のドーハッド関連文献を引用して20世紀のオランダやウクライナで戦争・飢餓の時期に出生した人々を対象とした疫学調査の結果を紹介している。沖縄が生活習慣病まん延県になった背景(戦中戦後の飢餓時代からその後の食文化のアメリカ化への移行の歴史)は第5章で詳しく解説されている。第6章では現在の日本の課題として低出生体重児の増加を取り上げ、その原因について言及している。第7章では、ドーハッド学説のめざすものとして「胎児期・新生児期からの先制医療」について述べている。

 全編をとおして、子どもが健康に生まれ、健康に育つ社会を目指す著者の願いが感じられる。日本における生活習慣病予防対策は、これまで国民健康づくり運動(健康日本21、健やか親子21)として展開されてきた。本年四月には「成育基本法」にもとづく「こども家庭庁」が新設され、母子保健施策に対する市民社会の参画がますます必要となった。保健医療関係者をはじめ多くの皆さまに本書を読んでいただき、著者の熱いメッセージを受け止めてほしい。

(外間登美子・琉球大名誉教授)


 あしみね・かおる 那覇市生まれ。県立中部病院長、県立南部医療センター・こども医療センター院長歴任。著書に「太平洋を渡った医師達 13人の北米留学記」(編著)、「母と子のカルテ」など。